さわ子と紬の部屋

□いんふる!
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ムギはしばらく大騒ぎをした後、ようやく落ち着いた。
「さわ子さん。ほんとに大丈夫ですか?お薬は?」
「うん・・・そこにあるわ。毎食後なんだけど・・・食欲なくって。」
お医者様に行った後、倒れこむようにベッドに入ったので、薬は無造作にベッドサイドのテーブルに投げ出したまま。
「食べても全部出ちゃう。下痢もひどいのよ。」

ムギがあまり心配そうな顔をするから。私は無理ににっこり笑う。
「まぁ、でも最近のインフルエンザの薬はよく効くらしいから。3日もすれば治るらしいわよ?」
「かわいそう、さわ子さん。私が代わってあげられたらいいのに。」
ムギが優しく髪をなでてくれる。
「ばか、ね。うつしちゃったら大変。来てくれたのは嬉しいけど・・・んっ。」

ムギは寝ている私に触れるだけのキスをすると。
「大丈夫。琴吹製薬の総力を結集したスペシャル予防接種済ですからっ。」
にっこり微笑んだ。
「待っててください。お腹に優しいもの、何か作りますね。」
また頬に柔らかいムギの唇が触れる。
あああ、幸せ。頭は痛いし、体はだるいけど。これならインフルエンザも悪くない。

しばらくして。台所からいい匂いがする。
ムギがお皿を持ってやってくる。
「お腹下ってるんだったら、固形物は多分だめだから、トマトベースの野菜スープにしました。・・・お口に合えばいいけど。」
「いい匂い。おいしそうね。」
私が手を伸ばしてお皿を受け取ろうとすると。
ムギはにっこりとそれを制して。
「はい。あーんして?」
私は黙って目で抗議する。
「・・・あーん?」
ムギはにっこり笑ってスプーンを私の口元に近づける。
おいしそうな匂いとムギの笑顔に私は抗う術もなく降参するしかなかった。
「・・・あーん。」
はぷっ。あ、おいし。なんだかとっても優しい味。
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