さわ子と紬の部屋

□罠と魔法とあなたと私
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「で?なんで卒業旅行に私なの?」
ムギちゃんはちょっと考えてから言った。
「・・・えーと。軽音部の活動の一つだから?」
「軽音部、旅行も活動の一つなの?」
「部員、顧問の間の親睦を兼ねて。既に梓ちゃんの参加も取り付けてますよ?」

私はあきらめて首を振った。
「既に外堀は埋まっているわけね?・・・分かったわよ。まぁ、ちょっと考えておくわ。」

「えー。考えないで行きましょう?ねぇ、『さわ子さん』。」

私はんぐっ・・・と言葉に詰まる。
「くっ・・・そ、そう来たかっ。」
ムギちゃんがすすす・・・と擦り寄ってくる。
「ほんとのこと、言いますね?・・・ほんとは『さわ子さん』と遊びたいだけなんです。」
や、やめて、その上目使い。破壊力がハンパないから。
「ねぇ、さわ子さぁん。いいでしょ、ねぇねぇ。」
擦り寄ってこないでっ。なんかいい匂いするしっ。
「ダメよ。私は先生なのよ?」
ぷぅ。とムギちゃんがふくれる。・・・だめだ。いちいち表情が可愛い。

「もう。すぐそればっかり。この間は一日だけ忘れてくれたのに。・・・ホテル アルファルファ?」

ムギちゃんがにこにこ笑っている。私は逆に頭の後ろに冷たい汗が流れる。
「ム・・・ムギちゃん?これってほとんど脅迫よね?」
「他の先生には内緒にしておきますね?」
私はがっくりと肩を落とした。
「・・・ハイ。ヨロシクオネガイシマス。」
ムギちゃんは、ぱぁっ!とひまわりのような無邪気な笑顔。
「よかったぁ!私、さわ子さんと旅行行くの夢だったんです。」
「・・・今まで合宿とか行ってるじゃない。」
ムギちゃんはさささ、とあたりを見渡すと。
すばやく私のほっぺにキスをした。
「・・・あ。」
「今までとは・・・違うもん。・・・今日は学校だからこれで許してあげます。」
彼女は顔を真っ赤にして、ととと、と離れていく。
「さわ子さん、大好き!集合時間とか、またお知らせしますねー!」

こらこら。部屋から出掛けにそんな事言ったら、廊下にまるまる聞こえてるわよ。

「・・・なんか、勝ち目ないわね、もう。」
私はため息をついて、後を追うように進路指導室を出た。

ふふっ・・・でも、可愛かった。

態度とは裏腹にスキップしそうなくらい私の足取りは軽かった。
結局。私はあの娘の罠にはまりたがっているのね。
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