さわ子と紬の部屋

□ずっとあなたと。
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「で?今日はどこ行くの?」
「んー。決まってないんですけど。たまには晩御飯一緒に食べたいなって。」
「そう。」
「あと、『さわちゃん分』が足りなくなったので、補給しに来たんです。」
「何よそれ。ああ、唯ちゃんの『あずにゃん分』と同じってこと?」
ムギはえへへ、と照れ笑い。
「唯ちゃんが梓ちゃんに『もうがまんできない〜』って電話してたから。」
「私も我慢できなくなって。さわ子さんに電話したんです。」
「・・・そういうことだったの。まぁ、新学期始まって一息ついたからちょうど少し余裕が出てきたところだったから、ね。」
ムギはじっと私の方を見て。
「ほんとは・・・毎日でも逢いたいけど。」
「今はまだ、無理だから。逢っている時間を大切にしなくっちゃ。」
「ムギ・・・」
ああ、まずい。
周りには人がいるのに。
ムギが可愛すぎて、このままキスしてしまいそう。

「あ、山中せんせーい!」

私はその声にばばっ!と向き直った。
辺りを見渡すと。
私服を着ているけど、可愛いポニーテールに見覚えがあった。
桜高の生徒の一人。
担任にはなってないはず。
「あら。こんにちわ。」
私はそっとムギから離れる。
彼女は私に駆け寄ってくる。
「こんなとこで奇遇ですね。・・・あ、琴吹さん?琴吹 紬さんでしょ?」
彼女はムギにも目を向けた。
「あ・・・はい。」
ムギは不思議そうに首を傾げて。
「・・・ごめんなさい。どこかでお会いしてたかしら?」
「いえいえ。私が放課後ティータイムの一ファンってだけです。毎年、学祭のライブ、楽しみにしてました!」
「そうなの?ありがとう。そんな風に言ってもらえると嬉しいです。」
ムギはほんとに嬉しそうに微笑んだ。
彼女はびっくりしたような顔をした後、真っ赤になって目を伏せる。

「よかったじゃない。こんなかわいいファンがいて。」
私はちょっとムギをからかうつもりで言った。
「へへっ。・・・でも私、山中さわ子ファンクラブの会員でもあるんですよねー。」
「へっ?」
「ファンクラブ?・・・私の?」
私とムギは二人とも呆然とする。
「そうですよ!・・・ほら!会員番号134番!」
彼女はバッグの中を探ると、「山中さわ子ファンクラブ会員証」を取り出した。
「そ、そんなにいるの?」
ムギが慌てたように聞く。
「305番が欠番になる予定らしいんですけど、まだそこまでは行ってないって聞いてます。」
私はため息をついて。
「もう。当たり前でしょ?300人もいたらほとんど全校生徒じゃない。」
「えへへ。噂では男性教諭の会員もいるとかいないとか?」
ムギは微笑みを浮かべつつ、私の方を見て、ぽつりとつぶやく。
「・・・ふーん。そうなんですか。」
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