さわ子と紬の部屋

□ずっとあなたと。
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・・・ヤバい。なんだかムギの視線が痛い。

私は慌てて話題を変えることにした。
「え、えっと。そういえば、こんな時間にこんなところで何しているの?早く帰りなさい?」
「近くの予備校に通ってるんですよぅ。ちょっと寄り道しましたけど。」
彼女はニヤニヤしながら。
「先生こそ、こんなとこで琴吹さんと何してるんですか?最初腕組んでたみたいに見えましたけど・・・もしかしてデート?」
私は努めて平静を装って。
「バカなこと言わないの。偶然久しぶりに会っただけよ。ねぇ、琴吹さん?」
ムギはジト目で私をにらんで。
「・・・へーぇ。そうですか。偶然。久しぶりに。」

・・・いやいやいや。ムギさん。そこは大人になりましょうよ。

私が目で謝るとムギは彼女に向き直って。
「そうなの。『たまたま』『先生』と『久しぶりに』会ったから、びっくりさせようと思って。」
・・・にこやかに『』付きで喋っているのが余計に怖い。
「後ろから抱きついてみただけなのよ?」
ムギは上品な笑顔のまま、くるり、と私に振り向いて。
「ねぇ、『先生』?そうですよね?」

・・・怖い怖い怖い。

「え、うっうん。そーなの。」
「へー!意外!琴吹さんもそういう事されるんですね!いつもおとなしくて上品な感じだから・・・あっ、ごめんなさい。」
彼女は喋りすぎたと思ったのか、ムギに謝る。
「ううん、いいのよ。そんな風に見てもらえてるなら嬉しいわ。」

まずい。この流れはまずい。
「とっとにかく!もう予備校終わったんでしょ?早く家に帰りなさい!」
「はいはーい。じゃ、先生!またね!」
彼女はひらひらと手を振ると駅の方へ駆け出していった。
私も手を振りながら見送って。
ムギの方を振り返る。

案の定、ムギはそっぽを向いていた。

「・・・あ、あのね。ごめん、ムギ。怒ってる、よね?」
「いーえ、『先生』。ぜんっぜん気にしてませんから!」
・・・すっごい気にしてるじゃない。
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