さわ子と紬の部屋

□花より団子!
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と、いうわけで。
「ねぇ、ムギ。今度の土曜日、花火大会に行かない?」
私はムギに電話をして。
「素敵!私、浴衣着ていきますね?」
「・・・浴衣?」
「ええ!私、とっておきの浴衣があるんです。」
とっておきの、浴衣。
・・・可愛いだろうな。
「そ、そう。楽しみにしてるわ。」
私は電話の向こうで止まらないニヤニヤを堪えつつ。
「じゃあ、4時に駅で。うん。私も愛してるわ。じゃあね。」
できるだけ男前の声で囁いて電話を切った。

・・・て、言ってたのに。
土曜日。
朝、目が覚めると、すぐ横にムギの寝顔。
「・・・うおぅ?」
思わず大きな声が出てしまって。
むにむにと目をこすりながら、ムギも起き上がる。
「・・・おはようございます。さわ子さん。」
「おはようございますって、ムギ。今日は夕方の待ち合わせじゃなかった?」
「いいじゃないですか。早めに着いちゃったんです。」
「早めにって・・・」
時計を見るとまだ朝の9時。
「早過ぎじゃない?」
「・・・来ちゃだめだった?」
ムギはちょっと首を傾げて上目づかい。
見ると、ムギは紺色に白で大きめの花をあしらった浴衣姿。
たまらなくなって、ぎゅう、とムギを抱きしめる。
「そんな訳ないでしょ。逢いたかったわ。」
ムギが嬉しそうに笑う。
「えへへ、良かった。」
私は優しく微笑んで。
「浴衣、とっても良く似合ってる。可愛いわよ、ムギ。」
ムギはちょっと目をうるうるってさせて。
「・・・嬉しい。さわ子さんのためだけに着てきたの。」
ぽすん、と私の胸に飛び込んでくる。

ムギはちょっとふくれて。
「ほんとに待ち遠しかったんです。一刻も早く逢いたいと思ってたのに。」
「なのに、さわ子さんはあっさり夕方4時の待ち合わせ、なんて言って。」
「・・・ショックだったんだから。」
「ムギ・・・。」
私は言葉を失った。

女子大の寮で暮らす彼女と私立女子高の音楽教師の私。
平日に逢うのはちょっと無理。
軽音部と吹奏楽部の顧問を兼任する私は土日ですら、ムギに逢う時間をキープするのに苦労していた。
「私はこんなに逢うのを心待ちにしてるのに。さわ子さんは夕方4時まで待っても平気なんて。」
「ムギ、ごめんね。でも早めに来てくれて嬉しいのはホントよ?」
私はムギを傷つけたと思って、必死に言い訳。
そんな私に、ムギはにひ、と相好を崩すと。
「・・・許してあげる。さっき、抱きしめてくれたの、キモチ良かったから。」
「さわ子さんの『逢いたい』キモチ。伝わってきたから。」
ムギはそう言うと、情熱的なキス。
私の舌を絡めて蕩けさせる。
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