さわ子と紬の部屋

□初めての、コト。
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紀美はニヤニヤしながら。
「いやぁね、キャサリンったら、はしたない。」
これ以上ないくらいのどや顔で。
「もちろん、えっちの時に使うアレに決まってるじゃない!」
意味もなく胸を張った。
「そ、そんなもん、預かれるかぁっ!ここは乙女の部屋なのよ!」
紀美はきょとん、として。
「あら。あの娘とはこういうので遊んでないの?」
私はあきらかにうろたえた。
「あっ、あの娘って?」
「軽音部の。まゆ毛が可愛い。・・・えーと、ムギちゃん、だっけ?」
「・・・なっ、なんで知ってるの?言ったっけ?」
「なんとなく、ね。・・・何度かあんたの部屋でばったり会ったりしてるじゃない?」
「そ、そう。でもバレちゃってるとは思わなかったわ。」

紀美はさみしそうに私の頬を撫でて。
「ひどいわ。私の事は見向きもしなかったクセに。」
愛しげに見つめる。

「・・・ねぇ。覚えてる?ライブで突然、アンタが愛してるよ、って言った時のコト。」
その眼差しが痛くって。
「良く言うわ。アレはあんたがリクエストしたんじゃない。」
目をそらした私は当時の事を思い出した。

・・・・・・・・・

「ねぇ、キャサリン。」
「何?クリスティーヌ。」
「今度のさ、ライブのMCの事だけど。」
「うんうん。」
「『お前ら、愛してるぜ!』っていっつも言うじゃん。」
「お前ら、あ・い・し・て・る・ぜー!・・・って?うん、それが?」
私はライブで言っている通りに言ってみた。
クリスティーヌ・・・紀美はギターを弾きながらそっぽを向いて。
「あれさ、うちらにも言ってくれない?」
『アイス食べない?』みたいなノリでさらり、と言った。

わたしはたっぷり頭の中で紀美の言葉を反芻して。
「・・・・・・へ?」
世にも間抜けな答えを返した。

なのに紀美はそしらぬ顔で。
「『愛してるぜ、クリスティーヌ』とか言っちゃうの、新しくない?」
「待って待って。あたしら、デスメタルのバンドでしょ?」
「いいから。言ってみてよ。」
私はんー、と考えて。
「『地獄の底で待ってるぜ』とかの方がよくない?」
紀美はいやんいやんとかぶりを振って。
「さわ子のそういうセンス、信じられない!」
私はちちち、と指を振って。
「メークしてる時はキャサリン、でしょ。」
紀美はぶーたれた顔をしてた。
「じゃ、キャサリン。妥協案として『地獄の底まで一緒だぜ!』って。言ってみて?」
それが愛らしくて、思わず意地悪してしまう。
「やーよ。恥ずかしい。却下。」
紀美は一瞬悲しそうな顔をして。
「・・・そっか。じゃいいよ。」
ぷい、とそっぽを向いてしまった。
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