さわ子と紬の部屋

□まるで、媚薬。
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なのに、携帯の向こうで、おねぇちゃんのくすくす笑いが聞こえて。
「ふふっ、そこ、マジメに答えちゃうんだ。律っちゃんが澪ちゃんに聞いた時は『だーっ!うるさいっ!』って怒られてたよ?」
私は一層真っ赤になって。
「だ、だって。突然だったからっ!」
「うふふ。でもダイタンなの、着けてるのね。」
「・・・直ちゃんに見てもらうの?」
やだ・・・直の指の感触、思い出しちゃった・・・
「うん。・・・今日、バレンタインだもん。本命チョコ、用意してあるし。」
「直ちゃんは幸せ者ねー。」
「おっ、おねぇちゃんだって、今日はさわ子さんと逢うんでしょ?」
「うん。いつもは平日はダメなんだけど、今日は特別にね。さわ子さん、お仕事、早めに切り上げてくれるって。」
「じゃあ、おねぇちゃんだって勝負下着なんでしょ?」
「さぁ?どうかしらね?」
・・・ずるい。
「じゃ、チョコは?あ、ベルギー王家御用達のアレ?」
「うふふ。それも秘密。・・・すっごいチョコ、用意したんだから。」
あ、これ、悪企みしてる時の笑い声だ。
「山中先生・・・どうかご無事で。」
携帯の向こうで、ぷぅ、とふくれる気配がして。
「何よー。すっごくおいしいのよ?」


その時。
「あっ!1人、生徒が接近中です!2人、3人・・・すごい数です!」
「ええ?みんなチョコ、渡すのかしら?」
「・・・そうみたいです。小さな包みを抱えています。」
「さわ子さんは?受け取ってるの?」
「あっ・・・すごいいい笑顔で受け取ってますね。」
携帯の向こうのおねぇちゃんが無言で押し黙る。

「・・・そう。すごいいい笑顔で。ふぅん。」
・・・すごく不機嫌そうな声。

私はちょっと先生がかわいそうになった。
でも私はおねぇちゃんの味方だから。
「あれ?最後の1人は手紙みたいなものを渡しましたよ?」
「・・・まずいわ。」
「へ??って?チョコが?」
「違う、違うー。さわ子さんが危ないわ!」
私は今一つピンと来なくて。
「危ないって、いうと?」
「手紙を渡された子に放課後、どこかに呼び出されて!キスとか・・・ムニャムニャをされちゃうに違いないわ!」
・・・そんなコトないと思うけど。
「菫!放課後、私が行くまででいいから!さわ子さんから目を離さないで!」
えー・・・私、早く直といちゃいちゃしたいんだけどなー。

「おねぇちゃん、こっちこっち!」
でも私はいつでもおねぇちゃんの味方だから。
放課後、先生の後をつけて、体育館の裏。
なるほど、ここなら多少・・・ムニャムニャしても誰にも気付かれない。
いい場所見つけちゃった・・・じゃなくって。
走ってきたおねぇちゃんは息を切らして。
「はっ、はっ、はぁっ。さわ子さんはっ?無事?」
「うん。今のところは、ね。まだ相手の娘、来てないみたい。」
「はっはっ・・・はぁー。良かった。」
ひまわりみたいに微笑むおねぇちゃん。
この笑顔が見られたら、今日一日の苦労が報われる。
「あっ・・・しっ。あの娘、来た、よ?」
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