さわ子と紬の部屋

□まるで、媚薬。
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・・・・・・
「あっあのっ。山中先生っ。」
振り向くと、震えるポニーテールが愛らしい女の子。
確か2年生で、担任にはなってないはず。
ポニーテールと可愛いほっぺが印象に残っていた。
「来て、くれたんですね。」
私はにっこり、と笑って。
「当たり前よ。手紙、読んだわ。」
ポケットからその娘がくれた手紙を取り出した。
「素敵なラブレター、ありがと。」
手紙の中身は『好き』が溢れていて。
「・・・チョコ、もらって下さい。」
差し出されたチョコは丁寧に包装されていて。
「だけど、ごめんなさい。そのチョコはもらえないわ。」
「先生にはもう好きな人がいるの。その人をすごく大切に思ってるわ。」
その娘はうつむいたまま。
「・・・琴吹・・・紬さん?」
私はちょっと躊躇って。
「ええ。そうよ。」
「・・・やっぱりなぁ。予備校の帰りにばったり会ったことあったじゃないですか。」
「・・・ええ。そうね。」
彼女には以前、ムギとのデートを目撃されていた。
その時は必死にごまかしたけど。
もう隠さないことにしたんだもの。あの娘が好きで何が悪いの?
「あの時もなんか怪しいなって思ったんですよね。だけど・・・先生と琴吹さん、恋人同士じゃない、ほうが、えぐっ、いい、からっ・・・」
「・・・先生の嘘つき。・・・信じちゃって、まだ可能性あるかなって、思っちゃったじゃないですか。」
まっすぐな思いが心に突き刺さる。

「ごめんなさい。」

私は頭を下げた。
「嘘をついたのは悪かったわ。ほんとに、ごめんなさい。」
彼女は面食らったように、呆然として。
「・・・もう。普通は抱きしめてくれたりするもんですよ?」
ぐしぐしぐし、と涙を拭いて。

「・・・ごめん。」

私はまた頭をさげた。
彼女は涙の跡でぐしゃぐしゃになった顔で笑って。
「やっぱり先生、優しい。」
「優しくなんかないわよ。あなたを抱きしめる腕を持っていないだけ。」
ううん、と彼女はまた笑って。
「抱きしめてくれたりしたら、私、先生の事、あきらめられなかったかもしれないもの。」

「・・・貴女のこと。好きになって良かった。」

彼女はまたほろり、と涙を流して。
「じゃあね。先生。」
くるり、と私に背を向けた。
「ええ。さよなら。」
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