さわ子と紬の部屋

□罠にかけられて
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その日。
私はムギとお部屋デート。
私のお部屋のソファでいちゃいちゃしてた。
「ねぇ、さわ子さん。来週の日曜日、なんですけど。」
ムギはどことなく言いづらそうな口ぶりで言った。
「うん。ムギの誕生日、の前日でしょ?」
7/2は月曜日だから。休みの取れない私は夕方早く上がって二人きりでパーティをする予定だった。
その前日である日曜日も。いつもの週末と同じように一緒に過ごす予定だった。
ムギはおそるおそる、私の表情を伺いながら言った。
「あの、あのね?その日、父様がパーティ開いてくれるんです。」
「お父さん?」
・・・平常心、平常心。
私はちょっと苦手・・・いや。
できれば二度と会いたくないって思ってるのが顔に出ないように努力した。
「・・・父様がさわ子さんもお呼びしなさい、って。」
「ふーん・・・えっ??」
これは予想外。
ムギのお父さんと言えば、以前ムギのお見合いをぶち壊しに行った時に。
別れるように言われて・・・正確に言えば脅されて。
私がブチ切れてにらみ合った仲だ。
さすが琴吹グループの総裁だけあって、その眼力たるや凄まじく、できれば残りの一生はあの目に睨まれずに生きていきたい。
「あっ、あのね?さわ子さんとの事、ちょっと認めてもらえたのかなぁって。一歩前進かなって思うんです。」
「さわ子さんがああいう堅苦しいの、嫌いなの分かってるけど・・・だめ、ですか?」
私の眉がちょっと寄っているのを見て、心配そうにムギがつぶやく。
「あっ、ああ、だめじゃないわよ。もちろん。喜んで伺うわ。」
ムギは、ぱぁってひまわりみたいに笑って。
「良かったぁ。さわ子さん、大好き!」
私の腕の中に抱きついてきた。
私はムギのしなやかな髪を撫でてやりながら。

さて。どういうことだろう。

水と油。犬と猿。権力とロックンロール。
およそ気が合う事と言えば、ムギをこの上もなく愛してるって事だけ。
「チキチキ!第一回ムギ争奪『ムギのこと好き好き』選手権!」が開催されたら、私とお父さんの決勝戦になるのは間違いない。
・・・もちろん優勝は私だけど。
そのお父さんがムギの誕生パーティに私も呼ぶってことは。
何かある。ないわけがない。

「あ、ねーぇ?ムギ?」

ムギは私の胸に頬ずりするのをやめて、私を見上げる。
「服装は?私、ドレスとか持ってないんだけど。」
「そう!それなんですけど。」
「父様が作ってくださるんですって。仕立て屋さんが採寸に伺うので、ご都合のいい日を教えて下さいって。」
「そ、そう。」
「それから、いらないって言ったんですけど・・・来てくださった皆さんから私にプレゼントを渡す趣向があるそうなんです。そのプレゼントだけ持ってきてくださいって。」
プレゼント、かぁ。
「うん。分かったわ。私にしか贈れないようなとびっきりのを持っていくから。」
私はこの時。
既に罠にハメられていた事に気づかなかった。
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