さわ子と紬の部屋

□幸せになろうよ。
2ページ/26ページ

―――
今年の7月2日はムギの20回目の誕生日。
私は近くのちょっと良さ目のホテルのレストランを予約して。
ホテルの外でムギと待ち合わせ。
ゆったりとしたドレープの入った黒のドレス。
ノースリーブで大きく胸元を開けたVネック。
「・・・あっつ。」
どっか冷房の効いたとこで待ち合わせの方が良かったかな。
ちょっと後悔しながら、時計をちらり。
そろそろ時間だ。
すると、どうやって角を曲がるのか分からないようなリムジンが入ってきて。
「・・・ああ。あれね。」
私もだいぶムギの並外れた登場に慣れてきた。
ま、ヘリで乗りつけなくなっただけでもマシな方よね。
周囲の視線を思い切り引きつけつつ。
ドライバーがドアを開くと、中から現れたのはやはりムギ。
彼女は軽くドライバーに礼をすると、あたりを見渡した。
「ムギ。こっちよ?」
私が軽く手を振ると、彼女は飼い主を見つけた子犬みたいに駆け寄ってきて。
「ごめんなさい、さわ子さぁん。待った?ちょっと道に迷っちゃったみたいで。」
・・・道に迷ったっていうより、できるだけ曲がらないで来る道を探してたんじゃ?
ムギは上品な薄いピンクのパーティードレス。
オフショルダーのミニで、胸元の花の刺繍が彼女の豊かな胸を強調してる。
「ううん、そんなに待ってないわ。ほら、走ると危ないわよ?」
ムギは駆け寄ってくると、いきなり私の胸に飛び込んできた。
「さわ子さん!会いたかったぁ・・・」
「先週末、会ったでしょ?昨日電話で話したし。」
ムギはぷぅ、と膨れて。
「今週、ずっと会ってなかったもの。私、ずっと電話だけで我慢してたんだから。」
ああ。可愛いなぁ。
「・・・ほんとは、24時間ずっと一緒にいたいの。」
私より少し身長が低い彼女は目をうるる、って潤ませて私を見上げる。
まだ何か言おうとする彼女の唇を捉えて恋人同士のキス。
「・・・嘘。私もすごく会いたかった。」
ちょっと背伸びをした彼女を抱きすくめて、もう一度、キス。
「愛してる、ムギ。お誕生日、おめでとう。」
ほわん、としていたムギは真っ赤になって。
「やっ、やだ、さわ子さん。こんな人が多いところで。」
「いいのよ。いいでしょ?」
何も隠したりしなくていいんだから。
ムギは可愛く首を傾げて。
「・・・何かあったの?さわ子さん。」
・・・鋭いっ。
「う、ううん。なんでも。何でもないのよ。会いたかったから我慢できなかったの。」
今度は私の目をじっと覗き込んで。
「・・・なら、いいけど。」
きゅ、ってもう一度抱きついてすりすり、ってした。
「・・・ドレス、とってもよく似合ってる。可愛いわよ?」
私の恋人は嬉しそうにくるり、と回ってみせて。
「ありがとう、さわ子さん。さわ子さんもとっても素敵。ドキドキしちゃった。」
ふわ、と私の手を取って、自分の胸に当ててみせる。
「ほら、ね?」
ときとき、と伝わってくるムギの鼓動。
そして、ふわふわのムギのカラダ。
「・・・私もよ。」
私もムギの手を取って、胸に当てる。
「ほんと。私だけじゃなくって、良かった。ね、こうしてると、私達、鼓動まで一緒みたい。」
ムギはにっこりと向日葵のような笑みを浮かべた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ