さわ子と紬の部屋

□幸せになろうよ。
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「ね、そろそろ入ろうよ。ここ、あっつい。」
ん?と私は考えていた通りに、腕を差し出す。
ムギは慣れているらしく、優雅に私の腕をとって。
「嬉しい。エスコートしてくれるの?」
私は平静を装って。
「当たり前じゃない。ムギの誕生日なんだから。」
・・・落ち着け。私はムギのお婿さんになるんだから。
この程度の高級レストランなんか・・・あれ?この場合、お婿さん?お嫁さん?
ぐるぐる考えているうちに。
ムギがそっと腕を引っ張って。
「さわ子さん。ちょっと待って下さい。」
「・・・え?え?何?」
歩きながら考え事をしていて、不意を突かれた私のところに、黒服を着たウェイターがやってきて。
「・・・お待たせいたしました。御予約ですか?」
「あ、はい。山中です。」
あー、そっか。席に案内されるまで待たなきゃいけないの、ね。
「山中様、本日はご来店ありがとうございます。お連れ様、お揃いですか?」
ウェイターはあくまでも丁寧に。
「はい。大丈夫です。」
「こちらへ。」
流れるように私達を席へと導く。
・・・あー、慣れない。
ぎこちない私の背中にムギは隠れるようにして。
手を引かれるのを待ってくれている。
・・・ムギはこういうの。
全然問題ないんだろうな。
私が見つめると、ムギは、ん?って首を傾げて。
「連れてって下さい、さわ子さん。」
甘えるように寄り添ってくる。

通されたのは、レストランの一番隅に間仕切りをされた席。
「わぁ、すごぉい。二人きり、ですね。」
なぜかムギがひそひそと耳元で囁いてくる。
「そうよ。ムギの誕生日だから。二人きりになりたかったの。」
席についた私達の前にフランス料理のコースが出てくる。

「わ、これ、すごく美味しい!ね、食べてみて、さわ子さん。」
ムギはすっかりはしゃいだ様子で。
「・・・残念。いつもの居酒屋さんだったら、あーん、ってできるのに。二人で同じコースですものね。」
ころころころ、って楽しそうに笑う。
私もつい、つられて。
「あの店の料理とここの料理を比べたら失礼よ?・・・あ、ほんとだ、おいし。」
ムギは優しい笑顔のまま。
「あら。私、あのお店の・・・えっと、モツの煮込み?はどこに出しても恥ずかしくない味だと思ってますよ?」
「えー?あんなの、いい加減に材料ぶち込んで、煮込んでるだけだって。毎回、入ってる物、違ってるもん。」
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