律と澪の部屋

□一番のサポーター
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土曜日の朝。近くの駅で待ち合わせ。
ちょっと早めに着いて律を待つ。
軽音部に入ってからはなかなか見に行く機会がなかったから、久しぶりのサポータールック。
チームのロングコートの下にレプリカユニホーム。
スリムのジーンズにチームカラーのスニーカー。
うん。タオルマフラーも律の分と合わせて2本持ってきたし、完璧だな!

しばらくして、律がやってくる。
「やー、ごめんごめん!待った?」
「いや、そんなに待ってないよ。・・・それより律。」
私は律の服を摘み上げて言った。
「昨日、あれほど青い服着て来いって言っただろ!なのになんで黄色なんだよ!」
「やー・・・だって私、あんまり青いので可愛い服持ってなくって・・・」
「だけど、サッカー観戦にはサポーターカラーってのがあって、重要なの!」
律はちょっとしゅん、として。

「ごめんよぅ・・・だけど、せっかくの澪とのデートだからおめかししたかったんだよ。」

な、なんだ?今日の律のこのしおらしさは?
「しょ、しょうがない奴だな!私の着替え用のサポーターTシャツ貸してやるから、スタジアム近くで着替えろよ。」
私が渡したサポーターTシャツを広げて一言。
「・・・あんまり可愛くない。」
「いいの!チームへの愛だから着るの!・・・まだ可愛い方なんだぞ、これ。」
確かにサポーターTシャツはなかなか街中で着るのは勇気がいるデザインの物が多い。
律はふんふん・・・とTシャツの匂いを嗅いで。
「わぁ・・・これ、澪しゃんのいい匂いがする。」
ぎゅっと胸に掻き抱く。
「わぁ!匂いなんか嗅ぐな!鼻つまんどけ!」
「まぁまぁ、いいじゃん!さ、行こう行こう!」
律は手早くTシャツを自分のバッグに押し込むと私の腕に抱きついてきた。
ふわり、と律のいい匂い。
・・・お前のほうがうんといい匂いするよ。

「へへっ。久しぶりの澪からのお誘い。うれしーな。」
「そうだっけ?そんなに久しぶりかな?」
「そうだよ。私、ずっと待ってたもん。」

な、なんか律、今日、やけに可愛いな。気のせいかな。

電車に揺られることしばし。
スタジアムに早めに着いたにも関わらず、既にかなりの観客でスタンドは埋まっていた。
なんとかメインスタンドに二人分の席を確保して。
スタジアムグルメを楽しんだり、サポーターグッズを漁ったり、嫌がる律にサポーターTシャツを着せたり。
あっという間に時間が過ぎて、さらに人があふれて、メインスタンドはほぼ満員状態。
「うわ、すごい人だなぁ。」
「ま、今日は最終節だからな。試合後に退団選手のお別れの挨拶もあるし。」
「ああ。だから『ありがとう、片山 祐二』とかいう横断幕が出てるのか。」
律はひょい、と私の背中を覗いて。
 「・・・あれ?片山って・・・澪の背中に書いてあるヤツ?」
そう。私のレプリカユニホームの背中にも「KATAYAMA」の文字。
「うん。私、片山さんのファンだったんだけど。今日で引退しちゃうんだ・・・」
「ふーん・・・」
私がさみしそうにいうと律がふかっと肩を抱いてくれた。
・・・ありがと。言葉には出さずにそっと律に体を預けた。
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