律と澪の部屋

□映画のあとで。
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封切後、しばらく経っていたから。
さすがに映画館はやや閑散としてる。
「もう意外に空いてるね。」
ちょっとがっかりした恋人の声に。
「んー、まぁ。こんくらいの方が映像に集中できるさ。満員で隣の人が気になるよりいいじゃん。」
私達は中央のやや後ろに陣取って。
「ほら、ここなら他に誰もいないぞ?」
彼女はようやくにっこり笑った。
「うん。大画面、一人占めだな。」
「あらん。それを言うなら、二人占め、でしょおん?」
彼女はきょとん、として。
それから真っ赤になって。
「ば、ばかりつ。恥ずかしいコト言うなっ。」
でも私は大画面を見ずに彼女の方ばかり見てた。
視線を感じた彼女は。
「ほ、ほら。もう始まるぞ?」
キャラメル味のポップコーンを口に放り込んだ。
「へいへーい。楽しみだな、映画っ。」
ようやく前を向いた私に。
油断してちらちらこっちを見てる。
「んふ。何見てんの、澪しゃん。」
不意打ちで、彼女の視線を捉えて、にひひ、と笑いかけてやる。
彼女は真っ赤になって。
「しゅっ、集中するぞっ。」
困ったように眉根を寄せて、前を向く。

可愛い澪。

ビーっ!
ブザーが鳴って映画が始まる。
ふ、と思いついて、隣の肘掛に置かれている彼女の左手に、そっと手をかぶせてやる。

なっ、何すんだよ。

慌てた彼女は映画が始まっている事を思い出して、声に出さず訴えてくる。
私は何食わぬ顔で大画面を見つめてる。

心配しなくっても。いつも隣にいるよ。

指先から伝えたメッセージ。
澪はひくん、ってなって。
黙ったまま、その細くて長い指をからめてくる。

当たり前だ。・・・ばかりつ。

彼女の手はちょっと汗ばんでいて。
しっとりとしていた。

映画はさえない男と女友達の話。
男は初め、手の届かないような美女に恋をして。
恋の相談を女友達に持ちかける。
女友達があの手この手で作戦を考えて・・・

私はすぐに映画にのめり込んで軽く結んだ右手の事を忘れていた。
・・・ぎゅっ。
右腕に柔らかい物が押し当てられて。
思わず目を向けると夢中になってしがみついている澪。
私は気付かないフリをして。
押し当てられた柔らかさを楽しむ。

・・・私ってオヤジっぽいかなぁ。

いやいや。この柔らかさに対抗できる人はそういないよ?
ふに。ふにふにふに。
腕を動かしちゃだめだってば。
いや、でも・・・
全然映画が頭に入ってこない。
大画面に映っている画像を見ながら。
意識は腕に集中していた。

・・・くすっ。

傍らで抑えたくすくす笑い。
ちらり、と澪の方に目をやると。
澪が真っ赤な顔で見上げる。
そっと耳元に口を寄せてきて。
「・・・律のえっち。」
ふに、と柔らかいカラダをもう一度押しつけて。
「・・・感じる?」
嬉しそうに笑う。

ばっ、ばかやろー。
耳元に息、かかってるっての。
澪はうろたえる私を満足そうに見てた。
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