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□小波くんに問題発言させたかっただけの話
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※軽くお下品




まだ空は薄暗くて、周りは冷蔵庫が絶えず仕事をしている微かな機械音しかしなかった。暗かったのは、もしかしたら天気が悪かったのかも知れない。
とにかくその時の俺は、窓の外を見ようと思わなかったし時計も確認しなかった。
冬なのに大して寒く無かったことは確かだ。
そろそろ慣れてきた小波との同居(同棲って言ったら小波に怒られた)。なんのことはない普通のマンション。使い勝手がやっと分かってきた我が家を寝惚け眼でさまよう。
習慣的に洗面所へ向かう。
ここに住み始めてばっかの頃はよく間違えて小波の部屋に侵入した。もしかして、本能的に無意識下で俺の体がそこに行きたかったのかもしれない。なんてったって俺は半分精霊だ。
冗談半分に小波の部屋のドアを見つめる。寝ぼけたフリして小波の布団に潜り込むのは容易だ。ただ、あとで口をきいてくれなくなる。うん、やめよう…
がしがしと頭を掻きながら洗面所のドアを開ける。水の音。洗面所にはあろうことか先客が居た。


「小波…?」


顔を洗った後なのだろう、前髪から水滴が滴る、落ちる。場違いにも扇情的だと思ってしまう。
明かり取りの小窓から申し訳程度に入る光は申し訳程度にしか小波を照らしてくれない(それでも小波が扇情的だと思ってしまう俺は末期かも知れない)。
ゆっくりと顔を上げた小波と目が合う。空気が揺れる。


「…できちゃったんだけど」
「え、できちゃ…え?」


ピピピ…、聞きなれた電子音が響く。俺のライフはもうゼロらしい。走馬灯が駆ける。
小波、小波の体ってできちゃうような体だったっけ?視界に靄がかかる。
"できちゃった"が頭の中でエンドレスリピート。できちゃった、できちゃった。え、マジで俺どうすれば…


「責任とるから!!」
「何の?」


布団を押し退ける。
隣で俺の目覚まし時計を持って固まる小波の肩を掴む。


「できちゃっても安心しろ!!俺が責任とるから!!」


がしゃん。小波手から目覚まし時計が落ちる。鳴り出す電子音。
すべての時間が俺の中で止まる。
電池の蓋が外れるだけに被害がとどまった時計。それから響く音は、そう、さっきまで俺が聞いていた音だ。冷や汗が流れる。だらだら。
思い返せば俺はさっき布団を押し退けた。
…布団を押し退けた、即ち、俺オンザベッドってなわけだ。
目の前に居る小波に意識を戻す。…真っ赤だ。で、もって完全にフリーズしている。
固まる小波に近づく。微かなスプリング音がしたが小波は微動だにしない。
さっきまで時計を持っていた小波の手を掴む。

「…あのさ」
「バカ、変態、爆発しろ!!」

疾風の如く俺の部屋から飛び出し、自室にこもった小波は日が落ちるまで口をきいてくれなかった。


―――――

小波くんにできちゃったって言わせたかっただけの文章
夢オチは便利

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