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□気づくのが遅かった
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「カイザーはさ、難しく考えすぎなんだよ」

遠くを見て小波は言う。
灯台の下でうつらうつらと船を漕ぎながら小波は言った。
"これから言うことは、恥ずかしいから俺の寝言だと思ってくれ"とも言った。
茜色の日の光が黒いコートに染みる。暑い。眠たそうな小波の体温も。


「リスペクトなんて簡単な事なんだよ。何もデュエルだけにあるわけじゃない。」
「わかっていたつもりだ」
「その人の凄いと思う所に純粋に憧れればいいんだよ」
「例えば?」


少し間があく。
小波の思考を邪魔しないように極力音を消そうとした。どうしても体内のポンプが血液を循環させる音だけは静かに出来なかった。寄りかかっている小波の思考を邪魔してなければいいのだが。
茜色の日の光はだんだんと暗い色になってゆくのに俺の体温は上がったままだった。


「た、例えば、カイザーは…パイ投げるのが上手いなぁ………とか?」

真っ赤な顔で言う小波に思わず吹き出す。
予想を遥かに超えてきた小波の返答に久しぶりに思いきり笑った。
困った顔で"そんなに笑うなよ"と言う小波の目はばっちり開いていて、"寝ているんじゃなかったのか?"と言えばまた顔を紅くした。まったく忙しい奴だ。


「俺は寝ていたから小波が何を言っていたか全く聞いていない」


突然俺が真面目な顔をして話し出すと小波も動きを止める。


「ただ、これだけは言っておく。俺は、小波、お前をリスペクトしている。勝利をリスペクトした結果、俺の勝利、真の勝利は小波無しでは成し得ない事に気づいた。だからお前をリスペクトする。」

我ながら恥ずかしい事を言ったものだと思った。
思ってから気づいた、自分が小波に向ける感情はリスペクトの上をいく事に。そして、今の台詞で俺のそのリスペクトの上をいく感情を知らず知らずのうちに小波に告げている事に。


「…え、カイザー。なんかこれじゃあ告白みたいじゃ、ない?か?」


やはり俺は勝利以外をリスペクトできないのかも知れない




―――――

自分の気持ちにとっても鈍い亮
リスペクトを忘れてもほかの感情があるじゃない!!っていう都合のいい解釈

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