秘書と学者シリーズ

□秘書と学者の出会い(前編)
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 「実は、これをある人物に届けてほしい。」


 「…?これをですか?」





思わず、目を瞬かせてしまった。


慎重に受け取ってみると、それは大きさに見合って、さほどの重さでもない。
これなら、全然フクロウ便で配達できるのではなかろうか。

マーシャルの尤もな疑問を予測していたのか、プラチナブロンドの上司は困ったように微笑んだ。





 「いや、大きさも重さも大した事がないんだが、中身がかなり高価なものと言う事と、
フクロウや動物が近づくのを嫌がるもので、フクロウ便では運べないんだ。」


 「……つまり、危険物というわけで?」





この非常に見目麗しい長身の上司が、純血貴族の筆頭、マルフォイ家の現当主で、
闇の魔術などにも造詣が深く、闇払いたちから目をつけられているのは、

マーシャルでなくとも知っている、周知の事実というやつだった。

その絡みの危ないものなのかと暗に問えば、食えない上司はあっさり頷いた。





 「まあ、そんなところだ。しかし、箱を開けなければなんの危険もない。」


 「………それで、届け先は?」





しばし考え、マーシャルは先を促した。


男相手ならともかく、このルシウス・マルフォイは大した女好きな上、それなりにフェミニストだ。

そんな彼が、女のマーシャルに危険はないと断言しているのだから、そこはまあ信用できる。


あとは、届け先が問題なければいいが…という思いで聞けば、ルシウスは高価そうなローブの内側から、
1枚の羊皮紙の切れ端を取り出して、マーシャルに差し出した。





 「届け先人物は、セブルス・スネイプ。場所はスピナーズエンド。」


 「スピナーズエンド?」





聞いた事がない。

マーシャルは首を捻りつつも、その羊皮紙を受け取った。





 「わたしの学生時代の後輩でね。今は、ホグワーツで魔法薬学教授をしている偏屈な男だ。」


 「………。」





ふむ。ホグワーツの教授か。


マーシャルはそこに書かれている名前を住所を眺め、一瞬思案した。


得体のしれない人物なら、断るつもりまんまんだったが、
あの高名な魔法学校の教授をしているような魔法使いなら、そう怪しい人物ではあるまい。

ルシウスの後輩ということで、身元もちゃんとしている。


あとは、この厄介な上司のように女好きで、マーシャルにちょっかいをかけてこなければいいのだが…。

マーシャルは迷ったが、視界の端でルシウスの手が彷徨い出したのを察知し、
あちこちボディタッチをされる前に決断した。





 「わかりました、この小包をセブルス・スネイプ教授にお渡しすればいいだけですね?」


 「ああ、そうだ。助かるよ、マーシャル!」


 「でも、ホグワーツの教授なのに、自宅にいらっしゃるんですか?」


 「我が美人秘書どの、今ホグワーツは長期休暇中なんだ。うちの息子も帰ってきている。」





ルシウスにからかうように指摘され、マーシャルもそういえばと思い出した。

自分がホグワーツ出身ではないので、全然休暇の可能性を考えていなかった。





 「そうですか。息子様によろしくお伝えください。聡明で、とっても紳士なお子様でした。」





父親に似ず。


ちくりと嫌味っぽく言い返してやれば、ルシウスは素知らぬふりで笑って見せる。


この上司の息子は、父親によく似た見目のいいハンサムボーイで、
何度か、ルシウスの職場を訪ねてきているところで出会ったことがある。


いつも、父がすみません…と端正な顔で申し訳なさそうに言われたことは、今も記憶に新しい。

父親の女癖の悪さをよく理解しているのだろう。なんて、いい子だ。
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