秘書と学者シリーズ
□秘書と学者の第一歩
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「うわぁ…これ、なんだろう。」
ようやっと、納得のいくまで窓を拭き終えたマーシャルは、細々したものを片付けようとして、
リビングのテーブルの下に転がっていた謎の緑色の瓶を発見し、微妙な顔で、恐る恐る、
それを窓から差し込む光(窓を拭いたせいで、光の量が一気に2,3倍になった気がした)にかざしてみる。
スネイプは魔法薬学者だ。
平気で、毒物や有害な植物も扱うだろうし、
人を招き入れる事を想定していないこの家では、特別厳重に管理もされていないだろう。
自分できちんと用心しなければ、スネイプに無駄な心配と迷惑をかけてしまう。
「ええと、とりあえず、ここに置いておこう。」
そろーっと細心の注意を払い、
瓶をキッチンの棚に置きかけて…マーシャルはそれをリビングのテーブルに移した。
実験開けは、意識も朦朧としているスネイプの事だ。
キッチンなんかに置いておいたら、ひょっとして水か何かだと思って飲んでしまわないとも限らない。
実際、今もスネイプがマーシャルが来ていることにも気づかず、
実験室らしきところで、一心に大なべを覗き込んでいるはずだ。
(少なくとも、2時間前にマーシャルが見た時はそうだった。)
(にしても、赤ちゃんじゃないんだから;)
我ながら心配しすぎだと呆れたが、心配なものは仕方ない。
マーシャルはあらかた物を片付け終わると、腕まくりしたまま床を掃き、水ぶきして、
最終段階、すなわち拾い集めてまとめておいた羊皮紙の分類に取り掛かった。
「うーんと…なんだこれ。マンドレイク回復薬…あ、これの続きか!」
難しい顔で走り書きされたスネイプの文字に目を凝らし、内容で分類していく。
なるほどとブツブツ言いながら、
別の羊皮紙を引っ張り出して並べていくと、大体5つほどの実験の羊皮紙の小山に分かれた。
「………。」
あの人、一体、何日ブッ続けて実験していたんだろうか。
マーシャルが、まったくもう!と思わずぼやいた時。
― がしっ。
「Σびゃあ!?」
新種の生物の鳴き声のように、謎の叫び声を上げてしまった。
いきなり、後ろから何かにがっしり抱きつかれたのだから、無理もないと思ってほしい。
「……!?」
後ろに、誰か近づいてきたのにも気づかないなんて、
いくら好きな相手の家の中とはいえ、不用心すぎると自分に眩暈を覚えつつ、恐る恐る振り返る。
…振り返ってみると、マーシャルの背中で、腕を回してがっちり抱き込んでいるのは、
何の事はない、この家の主セブルス・スネイプだった。
「セブルス!もう、ちょっと、脅かさないでくださいよ!;」
あー、びっくりしたと胸をなで下ろしたのだが、
安心すると今度は、後ろから抱きつかれているという事実を認識して、
途端に、自分で嫌になるほどドギマギしてしまう。
が、それは相手に意識がある場合の話だ。
「セブルス?」
「…………。」
「セーブルース?」
「…………。」
返答なし。
ぐったりと凭れかかっているスネイプは、相変わらずの黒ローブ姿で、
近くで見ると、これまた相変わらずの目の下のクマをこさえていた。
これは、後で叱らねばと思いつつ、
なんとか、思いのほか逞しいその腕の中でもがいて、くるりとスネイプの方を向いてみる。
ぐったりして、マーシャルの首筋に顔を埋めている割に、腕の力は驚くほど強い。