長編夢その2-休暇編
□第1幕 初めての長期休暇
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― かちこち、かちこち。
ちょうど学期が一区切り付き、ホグワーツが長期休暇に入った第1日目。
魔法薬学教授セブルス・スネイプは、今までと同じように、
目覚ましのベルもなしに、時計のかちこち鳴る針の音で、ふいと目を覚ました。
「…………。」
しかし、快調なのはここまで。
目を開け、ベッドの上で上半身を起こしたスネイプは、
そのままの状態で、ぼーーっとしてこの後の十数分を過ごす。
早起きながら、低血圧のスネイプは目を覚ましても、
体にエンジンがかかるまで、人より時間がかかるのである。
いつものように欠伸を噛み殺しつつ、まだ半分寝ている体と格闘し、
いつものように、最終的にのそりとベッドを下りてシャワーを浴びる。
つまらないと言われそうなほど、規則正しい生活を送っているスネイプは、休暇第1日目も、
いつもと同じ時間に起床して、きっちり身だしなみを整えて、寝室の隣の研究室に入った。
「…ふむ。やはり、休暇中はいいな。」
しばし、部屋の真ん中で立ち止まり、ぼそりとそんな感想が漏れる。
取り立てて自慢した事もないが、嗅覚と同じくらいスネイプは耳がいい。
(とある双子などは、スネイプの事を地獄耳と称していたが。)
地下の分厚い石壁越しにさえ、大量の生徒たちがいる時は様々な喧騒が細く聞こえてきたものだが、
休暇に入った今、この広いホグワーツにいるのは屋敷しもべ妖精たちと、1人の少女だけだ。
と、そこまで考えたところで、スネイプの思考は、すぐにその1人の少女に向かった。
「緋色は…もう起きているだろうな。」
早起きの少女の事を考え、スネイプはしもべ妖精に朝食を2人分頼みながら、ふいと窓へ近づいた。
朱雀大路 緋色。
真冬、夏の恰好で空から落ちてきた不思議な東洋の少女だ。
酷い怪我をして、混乱のあまり怯えていたその少女を保護し、
狸爺とも呼ばれている(主にスネイプが呼んでいる)アルバス・ダンブルドアが、
監視の意味も込めて、ホグワーツに入学させた。
前の世界でも両親がおらず孤児だったらしい少女は、無論この世界に身寄りがあるわけもなく、
生徒全員が帰郷する長期休暇の間も、ホグワーツに留まっていた。