長編夢その2-休暇編
□第4幕 ウィーズリー家へ(後編)
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― ウィーズリー家、隠れ穴。
それはあちこち増設し、無理やり上に階を積み上げたような建物で、
マグルの建築家が見たら、気絶しそうな代物である。
しかし、ちょんと指でつついたら倒壊しそうな見た目に反し、
隠れ穴は、もうかなりの年数そこに立ち続けている。
そんな隠れ穴の屋根裏部屋に位置しているロナルド・ウィーズリー少年の部屋には、
本日、初めてここを訪れる客人を迎えていた。
暖炉の中に迷い込んだ錯覚さえ覚える、一面キャノンズのチームカラー、
オレンジで統一された部屋の中、物珍しげな顔で座っているのは1人の少女と1人の少年だ。
少年の方はプラチナブロンドの髪とアイスブルーの目をした、
ウィーズリー家では元々その名を知られているドラコ・マルフォイで、肩に細長い筒のような荷物を下げている。
その隣に座っているのは、黒髪黒眼の少女、朱雀大路 緋色だった。
淡い桜色のワンピースを着て、長い黒髪を垂らした少女は、見慣れているホグワーツの制服とは
だいぶ印象が違っていて、華奢で温和そうな雰囲気が更に強まった気がする。
その緋色は小さめのバスケットを持っていて、
この部屋の主、ロナルド少年は、やや警戒したようにドラコと緋色の荷物を用心深く見比べた。
「ちょっと、2人とも。念のため聞くけど、それまさか課題とか教科書とか持ってきてないよね?」
「いや、違う。それも考えたんだけど…。」
「考えたんだけど!?」
しれっとした顔で答えるドラコに、休暇中、
友達の家に来るのに教材持ってくるとかイカレてる!と言いたげに、ロンが大げさに叫び返した。
わざとらしくしかめ面をして、耳に指を突っ込んでいるドラコの横で、
緋色はくすくす笑いながら、自分の手荷物を軽く振った。
「心配しないで、私も中身は教材じゃないから。
ロンに前、ドラコもおにぎり気に入ってたって聞いてたからね、
お昼作ってきたの。スネイプ先生のお昼を作るついでに。」
「「ついでに?;」」
無邪気な緋色らしい。
さらっとスネイプ先生優先発言を聞いて、ドラコとロンは声を揃えてしまったが、
学期中の様子を見る限り、
ついででもスネイプと同じものを作ってもらえるのは、この上なく名誉なことなのだろうと納得した。
どこぞの獅子寮の少年と違い、ドラコもロンも、友達としてこの東洋の少女を好いている。
その友人が少々行き過ぎと言えなくもないほど、スネイプに懐いているとしても、さほど気にならなかった。
「ついででも嬉しいよ、ほんと。」
「さすが、緋色!え、何、おにぎり?海苔は?」
「ちゃんと海苔巻いてるから、大丈夫!;」
そういえば、この子、海苔だけやたら気に入ってバリバリ食べてたなぁと緋色は思い出して苦笑した。
ドラコも案外日本食を気に入ってくれていたらしく、普通に喜ばれて、緋色も嬉しくなったの…だが。
ロンのキャノンズカラー一色の部屋を興味深く眺めている内に、
今朝の大事件を思い出し、知らず知らずのうちに肩を落としてしまっていた。
「「Σ!;」」
それを見て、緋色をクイディッチの世界に引き入れた張本人2人は、
少女の落ち込んでいる原因がすぐ把握できてしまい、思わず顔を見合わせた。
さっ!と顔を寄せると、手で口元を覆って、できるだけ声を低める。
「お、おい、そういえば、一番最初に緋色に会ったのはそっちだろ?どうだったの?」
「いやそれがもう、すごい傷心具合で;スネイプ先生に抱えられてきた。」
「う、うわー、やっぱり!;」
こそこそと小声で情報交換をする。
十中八九、緋色ががっくりしているのは、今朝の試合結果のせいだと2人ともわかっていた。