秘書と学者シリーズ
□秘書と学者の出会い(前編)
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「マーシャル!ちょっといいかな?」
「………。」
思えばその日は、そのなんとも爽やかな声で、マーシャル・ハワードの1日は狂い出したのだ。
その声の持ち主は、ここ、魔法省の地下6階に広い執務室をもつ高官ルシウス・マルフォイであり、
彼の秘書(の内の1人)を務めて早2年になるマーシャルは、できれば、その場でノーと答えたかった。
2年と言う、長いか短いかなんとも言えない期間の間に、
マーシャルは上司について、色々と苦い経験を蓄えつつある。
(朝一で、この人に声を掛けられると碌な事にならない。)
これも、経験に基づく法則である。
しかし、上司の声を無視するわけにもいかず、マーシャルはため息を飲みこんで、
渋々、それでもてきぱきと振り返って、軽く頭を下げた。
「おはようございます、サー。何か御用ですか?」
「今日も美人だね、マーシャル。」
「どうも。」
これは、ルシウス・マルフォイ語で、おはようということだ。
慣れたようにさらりとセクハラ発言を流し、マーシャルはそれで?と目顔で先を促した。
なんとも素っ気ない反応に、ルシウスはおかしそうに笑った。
「相変わらず、つれない。ま、そこが君のいいところだよ。今日、一緒にランチでもどうかな?」
「申し訳ありませんが、優雅にランチを楽しんでいる時間も取れませんで。」
この野郎、まさか、この忙しい時間に呼びとめた用事がランチの誘いなのだろうか?
ありうる…と思い、マーシャルが即答で断り、
また、さっさと向きを変えようとしたのだが、まあまあ!とすぐにルシウスに止められた。
「そう焦らず、我が有能秘書どの。
呼びとめたのは、ランチの誘いもそうだが、一つ仕事の頼みがあるからだよ。」
「……。」
だったら、そっちを先に言え、このヤロー!と思ったのは内緒だ。
マーシャルは微かに、ため息をついてみせるが、
ルシウスはにっこり笑って、小脇にかかえていた小さな小箱を差し出した。