秘書と学者シリーズ

□秘書と学者の帰宅
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すーっ、すーっと衣擦れのような微かな音が聞こえる。


続いて、その男。
セブルス・スネイプは、自分が何かとても柔らかなものに包まれて、身を横たえている事に気付いた。





 (……朝か…夜か。)





まだ朧な意識の中で、まずはそこから考える。


ホグワーツが長期休暇に入り、スネイプはこの好きでもない家に戻って来てから、
昼夜を問わず実験に明け暮れていたので、何も寝て起きたからと言って、朝だとは限らなかったのだ。


にしても、ひどく居心地がいい。





 (まさか、ちゃんとベッドで寝たのだろうか。)




自分が?

まどろみの中で、まさかと思っていると、
今度は、途切れなく続いていた衣擦れのような音の正体に思い当たる。


自分が髪を梳かれているらしいということに気づいて、スネイプは本格的に覚醒した。





 「………。」


 「あ、起きました?」





ぱち、ぱちと。

二度三度と目を瞬かせて、目の前にあるものをはっきり見る。





 「ごめんなさい、私が起こしちゃいましたか?」





そう言って、ばつが悪そうに謝っているのは、美しい紫色の目をしたマーシャル・ハワードだった。


いつものように、ブロンドを結いあげているのではなく、滝のように真っすぐな髪をそのまま肩に下ろして、
着ているシャツも、腹のあたりまでボタンが外れてしわくちゃだ。


ついでに言えば、スネイプは今までその開いたシャツの間に顔を突っ込むようにして寝ていたらしい。





 「………。」





一瞬、飛び起きて土下座するべきかと迷った。

が、その前にマーシャルがにっこり笑って、それまでしていたように、スネイプの髪をすいっと梳いた。





 「おはよう、セブルス。」


 「…おはよう、マーシャル。」





なぜか、それで一気に力が抜け、
スネイプはほっとして、ぼすんとまた枕に頭を預けると、ハーブの香りがするマーシャルの肌に鼻先を寄せた。


そんなスネイプの髪を穏やかに撫でると、マーシャルは残念そうに鼻梁の横にキスを落とした。





 「ごめんなさい、セブルス。私、そろそろ支度しないと。」


 「仕事かね?」


 「ええ。シャツもしわくちゃだし、まさか泊ると思ってなかったから、何も準備してないし。」





今、着ているのは昨日の服、
すなわち休日用のラフな服だったので、さすがにこのまま魔法省に向かうわけにはいかない。

(その前に、普通に外に出るのもどうかと思うほど、皺になっている。)


一度家に戻って大急ぎで着替えてから、出勤するしかないと、
マーシャルは、大人しくスネイプが緩めてくれた腕の中から抜け出して、顔を洗ってきた。
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