アレン×リンク+マダラオ


□[堕ちた鴉]
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「久しぶりだな」

雨。

旧本部壊滅後、新しい教団で久々に会った。
自分と同じ鴉だった男。
「お前がまさかエクソシストのお目付け役とは」

少しだけ鼻で笑うと、またすぐにマダラオは笑みを消した。

アレン・ウォーカーとクロス・マリアンの面会が終わり、重苦しく張り詰めた空気は解け始めていた。
マダラオは客間から空を仰いで、ぼんやりとした様子で立っている。

何かあったのか、聞いておけばよかったのかもしれない。
「まだ何も…核心には迫っていない」
リンクはソファに座り、待機していた。
「核心」
マダラオが呟く。
「聖戦の、核心、か?」

リンクには、マダラオの問い掛けが解せなかった。
「…それ以外に何かあるか?」
「リンク監査官」

マダラオが呼び掛ける。
リンクは仕方なく腰をあげて、マダラオの傍まで歩み寄った。
「どうした?」

すると、不意にマダラオがリンクにもたれかかった。
「お前は…鴉でいてくれ」
聞き慣れた低いその声は微かにかすれていた。
「マダラオ?」
気丈に聞き直したつもりだったが、言葉は焦りを持ってしまった。
「少し、このままでいさせてくれないか」
異様なほど、憂いと熱を帯びた声が、胸に迫り、奥を抉る。
「…教皇か?」
さするようにマダラオの背をそっと撫でた。
「この聖戦で勝利を得るためなら、奴らはエクソシスト達を使い捨てるだろう」
その言葉に、幼さの残る、焦燥とした瞳が、浮かぶ。白い影。
「…彼も、時の破壊者だ奏者だと言われても、結局はその命にエクソシストとして以上の意味はないということか。」
「お前はエクソシストに肩入れするな」
「……私はただの監視だ」
「お前が、辛くなるだけだ」
不意に重く響く声。
マダラオは、ふと腕に力を込めてリンクの腰を抱いた。
「!」
「俺はお前のことを、誰よりもわかっている」
「気負うな。私はエクソシストにも彼にも、感情移入はできない」
「……そうか?」
耳元で静かに躍動する、聞き慣れたはずの声が、何か違和感を感じさせた。
次の瞬間、耳元を濡れた軟体動物が這うようなぞくっとする不快感がリンクを襲った。
「ん…!マダラオっ、」
「ここでは、お前の表面を感じることしかできない」
おかしな切々とした重い悲しみが胸を浸した。
ただそれだけのことなのに、その空気が胸を締め付けたせいで、余計に感じさせた。
「次に会う時、お前の内側に埋もれたい」
耳元に静かな狂気と官能。
「…っ、次、だと」
「そのときお前は俺を憎むかもしれないが」
「何を、」
「約束してくれ」
不意にぎゅっと抱き締める腕に力が入る。
「アレン・ウォーカーにだけは、肩入れするな」
そう言って、体を離すと、リンクの瞳を覗き込んだ。
「私にはお前が何を言っているのかわからない」
「…たかが距離で、お前を失いたくないだけだ」
冷たい瞳をさっと部屋の扉に向け、ゆっくりと、歩きだす。

「……お前は大丈夫なのか?」
緩やかに狂気を帯びた空間にリンクの声色が響く。
「俺の意志は、お前の前でしか存在しない」
「?」
「それまでは教皇の意志が、俺の意志だ」
そう言って部屋を出ていった。
今更気付く。
夜更けに雨の音。

今思えば、あれは悪魔となってしまった、自分への戒めと迷いだった。
たとえそのとき気付いたとしても、何もできずに、ただ「教皇の意志」と成り果てた彼を責めただろう。

次に会ったのはパリ、鴉であるはずのマダラオが現場に現れた。
迷い、堕ちた彼を、あの時どうしてか楽にしてやれたのか…、
わからないまま、断罪の時を待つことしかできない、運命とそれに従う非力さを呪いながら。






―end―

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