普通の夢

□この23年間君を守りたかった後悔でいっぱいだった。
2ページ/3ページ

(ここからのおれは、完全にその女性目線の感情だ。)


男が、悪寒でもしたかのように顔色を変えた。
そして、ドアを開けて席から降りた。
男の目の前には、おれを狙っていた奴が立っていた。
奴が攻撃体制に入ろうとする前に、男は奴を拳で何発も撃った。
奴は、為す術もなく、体から血を流した。
それでも、男は奴をボコボコにした。


「やめて!!もうやめて!!!」
後頭座席のおれ(女性)は、目に涙を浮かべて、顔を手で押さえた。
男は攻撃をやめた。
ヘリの内部に体を向け、片腕を女性に差し出し言った。

「さあ、行こう。ここは危険だ。」

男の足元には、体がへこんだ男が無惨に仰向けになっていた。
アスファルトに真っ赤な血が流れる。

おれは、男の手を取って、ヘリから出た。
二人はしばらく歩いた。

「…お前まさかその鞄に、教科書とか辞書とか重いモン入れてないだろうな」
「…あ…入ってる」

このリュックは、この女性が「おれ」だったころ、テスト中に降ってきた雨で避難する際に背負ったリュックである。
「このあと走って逃げるかもしれないし、どうなるかわからない。余計なものは捨てとけ」
「…うん」

おれは、リュックから教科書やら辞書やらを取り出して地面に放り投げた。

この男は一体なんなんだろう。
おれを、本当に助けてくれているのか?
騙しているのか?
誰なんだろう。
外人であることには違いない。
しかし、流暢な日本語から、国籍は日本だろう。軍人?


「しかし、食料がないな…」

「…ねえ、なんで助けてくれたの…?」
「…………」

「……。ねえ、大丈夫なの?さっきの人、なんだったの?また来たらどうすればいいの…?」



「これは俺の夢なんだ。俺の思い通りに出来なくてどうする。」

「…これは、私の夢でもあるのよ。」



しばらく、二人に会話はなかった。ただひたすら歩いた。

数十分後、海が見えた。
砂浜に着いた。
白い砂の上に、茶色くなった古い野球のバットが捨てられていた。
男はおもむろにそれを拾い上げ、力強く素振りをした。
懐かしそうに、顔を穏やかにして。

「野球…、やってたんですか…?」

「あ?ああ…、俺は、この町の唯一の野球選手だったんだ。」
「そうなんだ…」
「昔は活躍したもんだ。」

「…」

男は、懐かしそうに、だけども悲しそうに、バットを見つめた。
俺は、近くにいた老夫婦がなにやら話をしているのを聞き、おばあさんに話しかけた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ