夢日記小説

□どうしてもって言うならとかじゃなくて
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次の日
登校中俺はリングのことを考えていた。周りに人が多いわけではないが、恥ずかしいのでポケットに突っ込んだ左手の
少し重い小指
に意識を集める。

きもち緩いが、俺はそれで満足していた。

ふと我に返ると、聴覚が急ぐ足音をとらえた。
と同時に誰かが俺の右腕に自分の腕を絡めてきた。
「ワッ」
「おはよっ!」
細いがしっかりと芯のはいった柔らかい腕。顔を見ないでもすぐにわかった。カノジョだ。
「なんだ〜ビックリした!」


それからずいぶんと時間がたったが、カノジョは離れようとしない。
いつまで続けるのだろうか。
自然と俺の視線がカノジョの左手に行った。
「!」
リングが
薬指に付いている



恥ずかしくなった。
俺は小指
カノジョは薬指…

この一本差は大きく激しい。
それが胸を締め付けた。

カノジョは俺の思考に気づいていないようで意気揚々と歩いている。その瞳はオレと違
ってぴしっと前に向けられていた。
俺と違って…


「なあ、ちょっと放してくれない?暑いよ
「えー」
今度は少し屈んでささやくように言った。
「…恥ずかしいから」

「……」


嘘だった。恥ずかしいとは思わなかった。それより、別の感情が心を支配していたから。
俺が顔をしかめていると

「…うるさくしないからせめて……せめて、近くで歩かせて…」
弱々しい声で言った。



また無意識に傷付けてしまったのだろうか。

カノジョは一度俺の右腕を強く抱えて、それから放して俺の少し前をオレと同じ速さで歩いた。

俺と同じ速さで歩くカノジョ。

きみは俺の速さを知っている。
おれは、キミの何を知ることができたんだろう?



思わずうつむいてしまう。
俺はいったいどんなつもりでリングをあげたんだろう。
俺はどう思って、カノジョはどう思って、このリングをはめたのだろう。

考えるだけで自分がとても情けなく感じる。自己嫌悪。どうしようもない男。


言葉にならない感情が交差し、両手を後ろで組む。

右手でそっと
左手のリングをはめる位置を
1つ前に

直した。
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