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□百年後の 叫び
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衰亡を知らぬ帝国、全ての民を庇護する偉大なる不老の王。
誰もが彼の偉業を讃え、その人柄(英雄的行為)に心酔した。
そのためか、不老の王が延々と玉座に鎮座することを、誰も不思議に思わない。
王自身が玉座を拒もうとも、それは永遠に彼の物なのだと、そうであることが国の長栄のためなのだと誰もが信じている。
縛られて動けない雁字搦めの王は、己に守れるものたちは守りたいという彼の願い故か、それを本気で拒むことができずにいた。


王は私室は勿論、自分が活動する場所に物があることを好まない。
どんなものにも愛着を示さず、ただひたすらに書類に向かうだけ。
彼の自室には明かりさえ最小限しか置いておらず、常に薄暗い状態を保っている。
机と寝台のみの部屋。
王はそんな自室の暗闇の中、誰かに語りかけるよう静かに呟いた。

「いつかの日、私は隣国の英雄と出会った。そして私は、彼に何故国を捨てたのかと問うた。建国の英雄として讃えられているというのに、何故国を捨て逃げ出したのだと。彼は、それが正しいのだと一言云うだけだった。当時の私は、彼をなんて無責任な人なのだろうと感じた。そして自分ならそんなことはしないのにと思った。思ってしまった。」

懺悔のために教会を訪れた罪人のように、彼は言葉をつむぐ。
目を伏せて手を組み、懐かしき当時の様子を思い出すかのように。

「だから、だから私は今になっても国を捨てることが出来ない。何度国を捨てようと思っても、彼の行為を無責任だと思ってしまった私が逃げるのはおかしいだろうと、民達のことを守りたいという思いを建前に私はいつも立ち止まる。私が国を捨てることで彼の行為を肯定すれば良いではないか、と何度思っても、当時の私の責を認めたくないと思う己もいる。なんという愚考だ。それでも私はどうすることも出来ない。王として過ごしてきた時が長すぎた。不老の王など国には不要なのだと何度云っても聞き入れてくれぬ民達をどう説得しろというのだ?どうすれば良い!?私にはもうどうして良いかわからない!!!」

それは既に叫びだった。

王として過ごすうちに本来の口調も忘れてしまっていた。
紋章の影響で姿は永遠に青年のままだが、上に立つものとして言動が少年のままでは示しがつかないのだ。
仕事に追われ、誰もが老いて亡くなって行くというのに己だけ取り残さてしまったような孤独感にまけ、いつの間にか、友人や家族と話すこともくなった。
そうして彼は長いときの中にいろいろなものを置き去りにしてきてしまったのだと嘆く。


静まり返った暗い部屋。
押し殺した嗚咽だけが響いている。
国の誰もが己を省みない。
国の誰もが己に気づかない。
そうしてこの国は崩れていってしまうのだろうか。









「ならば僕と共に行けば良い。」









窓も扉もしまっているはずの部屋に風が吹き込んできたとと同時に、その声は聞こえてきた。
終戦以来一度も聞く事のなかった、その声に許されることを願っていた懐かしい声。
王は、ゼロは涙を濡れた目を大きく見開いて声の主を凝視した。


「…リ、トさん?」


当時と何一つ変わらない姿で、隣国の英雄リト・マクドールは立っていた。
相変わらず表情の少ない顔にほんの少しの笑みを浮かべて。


「久しいね、ゼロ。彼是百年か、僕が想像していたよりは長く持ったようだな。」


心底感心したような呟きに、ゼロの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
怒りと安堵がない交ぜになったような表情でリトを見ている。


「見て、いたのか?ずっと、この国を、私を、私の、…」
「君はいつになったら音を上げるのだろう、とね。」
「っならば、なら、どうしてもっと早く、そう云ってくれなかったんだ!どうして…どうしてもっと早く…」
「それは責任転嫁というものだろう。」
「でもっ、それでもっ…私は、僕は貴方と一緒にいたかった!!!」


それが全て。
結局のところ、ゼロは自分と同じ境遇であり、自分のことを理解してくれる大きな存在であるリトと共にいたかったのだ。
出会った当初はなんて無責任で冷たい人なのだろうと思ったが、同じ時を過ごすうちにリトに対する感情は変化し次第に大きくなっていった。
そして終戦し、リトは何も云わず軍を去った。
軍主の手伝いとして軍に参加していた彼が去るのは当然の成り行きだというのに、ゼロは寂しさと共に怒りを感じていた。
どうして大切な人は自分を残して去っていくのだと。
それがお門違いの怒りだと分かっていても、それでも


「一緒に、いたかった…」
「ならば何故そう云わなかったのだ?僕は君が望めば君とともに行く旅も悪くはないと思っていたのだけれど。」
「…え?」
「君が国王になることは予想していたが、正直すぐに音を上げるだろうと思っていたよ。不老の王など不要なのだ。間違わぬ人間はおらず、疲れぬ人間もおらず、ということだ。」
「でも、みんながっ!」
「不老の王とてただの人間。少し特殊な能力を有しているだけの普通の人間が治め続ける国が、いつまでも平和でいられると思うか?だからこそ某国はいけ好かんのだ。」


リトは心底嫌そうに顔を歪めた。
そして昔を懐かしむように目を細め、手を差し伸べる。








「さあ僕と共に行こうか、元デュナン国王よ。」



















U主が後悔していることを知っていたが百年何もしなかった坊と、百年経ってどうすれば良いのか分からなくなったU主。
ハルモニア(ヒクサク)捏造
























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