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□子供のように微笑んで
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必要物資をある場所へ取りに行ってきて欲しいと頼まれたルックは心底嫌そうに否と答えた。
大体ルックは肉体労働に向かない上、石版の管理があるため、基本的には城から離れない。
おそらくテレポートでさっさと行って来い、ということなのだろうが、そのようなことで力を消費したくない上に、面倒だ。

「いやしかし、レイファは貴殿に頼めと言っておってな。」
「なら何だってその本人が言いに来ないわけ?来たところで承諾なんてしないけどね。」

先程からこの問答は続いており、レイファの使いとしてやって来たコウユウはルックには強く出られないようで、少々困り気味だ。
基本的にコウユウはレイファ以外の人間に対してのあたりが相当きつく、容赦も何もあったもんではない。
嫌がろうがなんだろうが無理やりにでも仕事をさせるため、この光景は誰の目にも意外に映る。
弱みでも握られているのでは、思われるが、なんやかんやこの二人は仲が良く、良く城内で一緒に本を読んでいたり、石版の前で小難しい紋章理論などを話し合ってしているところを目撃されている。
目撃者曰く、常にレイファの後ろにいるコウユウが誰かと仲良さそうに話しているのを目撃されるのはそれくらい、らしい。

「大体なんだって僕な訳?物資運びなら熊とか青野菜とか、筋肉質なのが色々いるだろ?」
「テレポートでささっと?」
「テレポートなら君でも出来るだろう?」
「まあ、レイファが許可すれば私でも良いんだがね。・・・とりあえずレイファのところに戻るか。」

苦笑しつつコウユウは、ぐるっと踵を返し、レイファのいるであろう部屋へ向かおうとした。

「うわっ・・・・・・ってレイファ!」

踵を返した直後、背後にいた人物とぶつかりそうになったコウユウは、何処にそのような反射神経があったのか、と聞きたくなるような動作でその人物をよけた。
その人物、レイファはコウユウの動作を酷く面白そうな笑顔で見ていた。

「やあ、コウユウ。ルックは了承してくれた?」
「あ、いや。ルックではなく私がテレポートで行ってしまえば良いかと思ってな。」

よけた結果前のめりになっていた体勢を整え、コウユウは先程決まった、というより決めた結論をレイファに告げた。

「却下。」

しかしレイファはいい笑顔でそれを却下し、ルックの方をみやる。

「コウユウは行かなくて良いんだよ。ってことでルック、さっさと行ってきてくれ。」
「はあ?何それ。凄い理不尽なんだけど。」
「コウユウは僕の傍にいてもらうから、物資取りに行くのはルック。」
「レイファが望むのならその通りに。」

ルックは今過ぐにでも切り裂きを発動させそうな勢いでロッドをにぎる。
コウユウはレイファに望まれたことが嬉しいのか、いつもよりは穏やかな笑顔でニコニコと笑っている。
レイファはそれに満足したのか、嬉しそうにコウユウと話している。
どこの新婚夫婦だ、とルックはイラつきながらレイファを更に睨む。
この二人の異常なほどの仲の良さ、というより異常なほどの依存具合は彼らにかかわりのある人間ならば誰でも知っている。
むかつきを通り越して呆れてきたルックは、嫌がらせも含めてあることを決めた。

「じゃあ、コウユウが一緒なら行ってあげるよ。」
「ちょ、何でそういうことになるの?」
「はん。何、テレポートってのは、力は勿論結構体力も使うんだよ。出来る人間が何人かいた方が効率が良いに決まっているだろ。」

食って掛かる勢いでレイファはルックに詰め寄り、胸倉をつかもうと手を伸ばす。

「・・・今、なんと?」

しかし、どこか呆然としたような、気の抜けた声がそれをさえぎった。
レイファとルックは、その常にない雰囲気で呟いたコウユウの方を見た。
コウユウは、未だにルックが言った内容を理解できていないのか、いや、本当にそういったのか信じられていないようで、困ったように眉を寄せている。

「ちゃんと人の話を聞いてたの?僕は、あんたが一緒ならば良いと言ったんだ。」
「私が一緒なら?」
「そう。あんたとなら、良いよ。」

それを聞いたコウユウはみるみる表情を変え、先程までの貼り付けた笑みはどこへやら、嬉しそうに頬を染め、無邪気な子どものように笑った。
常に浮かべている嘲笑の類とは全く違う、好意だけを純粋に伝えてくるそれに、周囲は勿論、彼の片割れであるレイファ、若干の嫌がらせで彼が同行することを希望したルック自身も驚き、目を見開いた。
当のコウユウは周りの様子など目に入ってないようで、未だに嬉しそうに笑っている。

「・・・コウユウ、嬉しそうだね。」

いち早くフリーズ状態から抜け出したレイファは、そう呟いて、ほっと安心したように息を吐いた。
レイファは常々、己の大切な片割れが幸せそうに笑ってくれるなら、何だってしたい、どんなことでも出来ると思っている。
コウユウは兄弟になった当初から今に至るまで、どんな状況の中にあっても常にレイファを優先し、己の望みはレイファの望みだと言い切り、己のことを省みることなどしなかった。
どこかそれを当たり前だと受け入れてしまっている自分自身も憎らしいのだが、コウユウ曰くそれは当たり前のことで、そうあるべきなのであり、それさえも己の意志なのだそうだ。
けれどコウユウがレイファを大切に思うのと同じくらい、レイファもコウユウのことが大事なのだ。
そんな当たり前のことを、おそらくコウユウはわかっていないのだろうな、とレイファは考えている。
そしてそれは当たっていて、コウユウにはもとより自分のために何かをしようという意志や、レイファ以外を優先しようという意志は毛頭ない。
それでもコウユウがこうして笑っている。
ただ、自分以外の誰かのおかげで、というのは大変気に食わない。

「・・・確かに、アホみたいに笑っているね。」

いつの間にか隣に来ていたルックが心底呆れたように話かける。

「アホみたいとは聞き捨てならないんだけど・・・。っていうかルック、君、コウユウに何したの?」
「何って何さ?」

ルックにしては珍しく、怪訝そうな顔でレイファを睨む。

「いつの間にコウユウ懐かせたの?」

本気で言っているのか、と問いたくなる内容だが、レイファ本人は本気のようで、顔はまじだ。
しかも無駄に笑顔だ。これは所謂笑顔の脅迫というものだろうか。

「懐くって・・・別に。ただ、時々本やら紋章やらの話をするだけだけど。」

本来ならばレイファの問いに答える義理などないルックだが、レイファが己に向けてくる感情が嫉妬だと気付けば、得意げに笑って答えてやる。

「うわ、どうしよう。本気でルックのこと嫌いになってきた。前々からいけ好かない奴だとは思ってたけどね。今すぐ袋叩きにしてトランの藻屑にしてしまいたいよ。」

レイファは笑顔のまま棍を右手でぎりぎりと握り締める。
対するルックもロッドを構え、互いの間にブリザードが吹き荒れる。

「いっそ原形留めないほどに切り裂いて燃やしたほうが良いかな。」
「へぇ、憧れの軍主様がそんなこと言うんだ?その面他の奴らに見せてやりたいよ。」

コウユウの方に気を取られていた面々は、二人の雰囲気に気付き、そそくさと逃げ出し始める。
止めようとするより逃げ出したほうが良いと、本能で察したようだ。
暫くにらみ合いの状態が続いたが、先に折れたのはレイファで、彼は怒りや何とも名状しがたい複雑な感情を一つ息を吐くことで整理し、コウユウを呼んだ。

「コウユウ。」
「はい。」
「行っておいで。でも、できるだけ早く帰ってきてね。」

そしてコウユウの肩に手を置いて笑いかける。
つられたようにコウユウも笑い、長揖の礼を取る。

「承知した。ではルック、行こうか。」
「・・・全く、仕方ないね。」

そう言ってルックはロッドを翳してテレポートを発動させるために魔力を込め始め、コウユウはそれに己の魔力を重ねるために右手を翳す。
そのとたん、強い風と黒い闇が二人を包み込み、彼らの姿は掻き消えた。
残されたレイファは、二人が消えた空間を少し眺めた後、さっときびすを返した。
内心で、某青野菜で憂さ晴らしをしようと考えながら。







コウユウ坊とルックは仲良し。(いろいろと裏がありますが・・・)
そんな二人にレイファはもやもや?
そんな関係のお話が書いてみたくなりました。





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