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□一度咲いた花は永久に。
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「私が成すべき事は既に終わったんだよ、ルック。」
終戦の宴の時に彼、リト・マクドールは呟くようにそう云った。
戦後はこの新しい国の指導者になるのだろうと思っていたのだが、それはどうやらはずれだったらしい。彼を知る誰もがそれを望んでいたはずなのそれを叶えることはせず、彼は誰に知られることなく静かにあの古城を去った。
彼らしいと云えば彼らしいかも知れない。
皮肉なことだが、彼を変えたのは間違いなくあの戦争だ。曖昧だった「自分」というものを確固たるものにしたいと望んでいる彼奴にとって指導者、いや、大統領などという地位は足枷以外の何者でもなかっただろう。
それで良かった。それが一番良い選択だった。
側にいたいと望まないわけではなかったが、それでも、彼は戦いから離れるべきだった。
そうして彼は表舞台から消え去った。
その筈だった。
なのに、どうしてあの猿はわざわざ彼を表舞台に引きずり出してきたんだ。彼は望んで表舞台から去ったというのに。
昨日から右手の紋章が騒いでいるのが痛いほどに伝わってくる。
どうせあの猿に根掘り葉掘り色々と訊ねられているのだろう、随分と気が乱れている。3年前なら絶対にあり得なかったことだな。
どうやら、彼はすこしなりとも変わることが出来たようだ。
けれど、心はいつも泣いているのにそれに気付けず、嬉しいときは嬉しいと云えず、役目が終われば消えるだけだと云っていた彼はもういない。だからといって今が悪いというわけではない。寧ろそれは喜ばしいことだ。
過去の彼がいたという記憶が薄れていくだけのこと。これは彼が望んでしたことだから口出しはしない。けれど、過去曖昧であった彼もまた、彼だった。
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