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□一度咲いた花は永久に。
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長閑としか云いようのない昼。
軍主からしてお気楽なこの軍は、戦争をしているといのに、心安くいることが出来ると評判らしい。それで良いのかと思いたくもなるが、そもそも平和であれ、という望みの元集まっているのだから良いのか。
そんな時ふとざわざわとした感覚を受けた。この五月蠅い気配は軍主であるゼロ以外にはいない。確認するまでもない。
僕は本から目を離すことなく声を掛けた。
「このアホ猿、また来たのかい?」
「誰が猿だーーー!!!」
「あんた以外に誰がいるってのさ。」
そしていつものように軽口を叩き、小馬鹿にしたような笑みを浮かべて目を猿の方に向ける。そして僕の瞳は驚愕に開かれた。
「…リト。」
「久しいね、ルック。」
紋章の気配はゼロのものだけだったはずなのに、もう一人ゼロの後ろに、ここ最近紋章を騒がせていた張本人が見慣れない柔和な(あの当時の貼り付けたような笑みではない)笑みを浮かべた彼が立っていた。
彼の纏っている温かな雰囲気が似合わないとは云えないが、どうしても違和感は拭えない。記憶の中にいる彼はいつも無表情(顔が、と云う意味ではない)だったから。
柄にもなく、何も云えずに固まってしまう。
後ろで猿が気を利かせたのだろうか、また後で、と云ってこの場から立ち去っていく。
「ルック、君は変わったようだね。」
そう云って彼は綺麗に微笑んだ。
顔の動きだけならあの当時となんら変わらないけれど、そのうちに含まれる感情や意思というものを感じることが出来る笑み。
ああ、何度この笑みを見たいと思ったことか。
けれど、やはり違和感は拭えなくて、僕は自嘲気味に微笑んだ。
「君は…そうだね。心境の変化でもあったのかい?」
「どうだろうね。」
「まだ、枯れるには早いということか…」
そうして苦々しそうに呟くと、リトはその心中を察したのかどこか嬉しそうに笑い言葉を紡いだ。
「そう、私は変わらない。咲いた花は、まだ枯れることを許されないようだから。」
「…そう。」
「ああ。」
不思議と浮かんでくる笑みはどう
したことか。
彼はどこまでも彼で。凛とした硬質な空気は未だ変わらず、彼が彼たる瞳の光も同じだった。
彼の本質が変わることなど有り得ないのだろう。それでもやはり何かに仕組まれている感はあるが、今はそれでも良いと思える。
あの当時誰もが彼の本当の意味での笑みを求めていたのだから。
認めてしまえば早いもので、ありのままのリトを正確に理解するよう頭を動かす。あの日、空っぽな笑みで痛みに耐える彼を記憶もそのままに、新たな記憶を上書きする。
戦争で成すべき事はもうないが、彼の役目はまだ続いている。
そして彼は咲き誇る。
「私はいつか必ず枯れる。けれどそれまでは君の傍で咲こうと思う。そうすれば、私の死も意味があることだと思えるだろうから。」
「お帰り、リト・マクドール。僕の最愛。」
そうして時は流れ、終わりの時が迫り来る。
*
一度咲いた花は永久に死ぬ。これだけは確かだ
オマール・カイヤム 「四行詩集」
相変わらず内容とかみ合わない。
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