09/26の日記

03:00
傷跡 鬼円
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「円堂…それは、どうした。」

若干目を見開きながら静かにそう詰問する鬼道の声に、円堂は普段なら見せないような表情をして振り返った。
声をかけられて初めて鬼道の存在に気づいたのか、円堂は眉間にしわを寄せながら目を細めた。
珍しく円堂はバンダナを外しており、普段晒されることのない額が露わになっていた。

「…いたんだ。」
「ああ、ついさっきな。」

円堂の普段バンダナに隠れて外にさらされることのない額には、一目見ただけで重傷であったと分かる裂傷の跡が残っていた。
その跡を隠すように前髪が垂れているため、注意深く見なければ気づかなかったであろう。
鬼道がその隠された存在に気づいたのは本当に偶然だった。
円堂は「いつもの円堂」の笑顔を顔に乗せ、何事もなかったかのようにバンダナを着ける。

「いやぁ、ちょっと前にしくじっちゃってさ。」

そうして殊更明るい声でそう言った。
笑っていない瞳は言外にかかわるなと告げてくる。
チームメイトの誰一人として、こんな表情をする円堂を見たことはないだろう。
けれど、鬼道がそんな円堂を見るのはこれで二度目だった。
一度目は風丸がキャラバンを離脱した後、雷門中の屋上で話したときだったろうか。
そのとき初めて鬼道は円堂のサッカー観や、彼が置かれていた環境について始めて知った。
子細までは語ってくれなかったが、それでも淡々と言葉を発する円堂の瞳の中に深く暗い闇があったことはあまりにも印象的だった。
鬼道はそのとき、円堂の笑顔と常に前向きな姿勢が嘘だとは思わないがその裏には相反するような暗いなにかがあるだろうことは確信していた。

「悪いが、それに騙されてやるほど俺は優しくないぞ。」
「…ま、鬼道だしな。」
「それは、一応褒め言葉として受け取っておこうか。」

軽く交わす会話の中にも普段にはありえない、緊張した空気が漂っている。
けれどそれは決していがみ合うようなぴりぴりしたものではなかった。
円堂は静かに笑ってから右手で額を軽くさすって懐かしそうに目を細めた。

「前に、中学はいる前までサッカー反対されてたって話はしたよな。」
「ああ。」
「その過程でちょっと喧嘩してさ。ま、これのおかげでサッカー出来るようになったっちゃなったのかな。」
「喧嘩の末に誤って怪我をさせてしまった母親が折れた、ということか。」
「ま、そういうことかな。」

円堂はにへらと、心配そうに自分を見つけてくる鬼道にほほえむ。
鬼道は円堂が何を思い何を抱えているかを知らない。
円堂は決してそこまで他人を踏み込ませようとはしないし、鬼道も無遠慮に他人の中をのぞこうとはしない。
けれど、と鬼道は思う。
鬼道は円堂守という存在に、彼の笑顔に、言葉に救われている。
帝国から、自分にサッカーを教えてくれた影山から、数々の迷いや弱さから、彼が救ってくれた。
だが、自分はどうだろう。
自分という存在は円堂に何かしら良い影響を与えられているのだろうか、と。
勿論、鬼道自身分かってはいるのだ。
円堂は自分以外にはこのような話はしないし、決して負の面や弱みは見せないことを。

「…円堂、サッカーは楽しいな。」

自身の思いをうまく消化出来ぬまま鬼道は呟いた。
けれどそれは決して紛うことない己の本心だ。
きょとんとした表情をした後、円堂は誰もが愛してやまない太陽のような笑みを浮かべた。

「ああ!」

どうか、どうか、神様。
太陽のような彼の笑顔を、奪わないでください。



………
今更イナイレにはまってしまいました。
円堂さんまじ天使。
とりあえず、普段常に前向きで明るい主人公を落とすことに最大の快感を感じる変態です。

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