青年がどれぐらい寝ていたのだろうかと首を傾げるほど空は薄暗くなっていた。

「伊吹?………伊吹?」

青年は少年のような口調で伊吹を呼ぶ。
伊吹がいない。その事が大人びた青年を子供にしていた。

《主、此処におりますゆえ…》

優しく頭を撫でる大きな手。

「…また父上の亡骸に入ってるのか…」

半ば呆れ口調で青年は寝転がったまま呟く。
優しく微笑む父の顔を見れば、本当に父がいるのではないかと。
その中身は父、そのものではないのかと思ってしまう。
ゴロリと、父の膝へ転がる。
脆く、壊れやすい亡骸とは違って、この身体は伊吹の生力が入っているため、
こうして何年も腐敗せず穏やかに透き通った瞳で見つめてくる。
その瞳を見つめ、そして目を閉じると思い出す。







「雅明!!!」

名を呼んだのは不意に我が子の事が心配であったからであろう。
男は少年の部屋にずかずかと入って行き、怒気のある声で言ったのである。

「何故、何故にそのようなところへ参ったのだ!!」

少年からしてみれば男の言葉やその怒気の原因がなんにあるか知っているわけであるが、
そこは子供である。
目に涙を浮かべるだけで、何も出来ずに俯いていた。

「何故、何も言わぬ?!あれほど行ってはいけないと申してあっただろうに!
何故、そこへ行ったのだ?!何故だっ?!」

とても広くは無いが、小さくもない邸中に響き渡るような声で男は少年を怒鳴りつけた。
しかし、その怒りは少年の行動ではなく、身を案じての怒りであった。
そのことは子供ながらに少年も知っていたようだが、真明の声は小さな身体に大きく響く。
少年は消え入るような声で言った。

「ごめんなさい」

半分涙声で震え、男の顔をみようともせずに俯いたまま呟く。
その言葉で反省の色はありありと見えるが男は尚も少年を叱りつけた。

「このような事、誰もしてよいと言っては無い!
母や父が許可を出さない事をお前は子供である身ながらに勝手に行動してよいと思っておるのか?!
一歩間違えればお前の首は飛んでいて、あの蔵の中に落ちている所だったんだ!」

先月、男が邸に持ち帰ったのは少年の背丈ほどある長い刀であった。
鞘は美しく、名高い仕事人が勤めたものであろう細かく、キレイな細工である。思わず、女の母でもうっとりとその鞘を見つめたものだ。
しかし、男は言う。蔵の中に封印しておくと。
いつもなら綺麗なものは居間へ飾りなさい。
とかアナタの枕元の段に飾りましょう。
とか飾りとして使おうとする母がそのときばかりは刀にも一切触れずにそうしたほうが良いと言い切ったのである。
それには少年自身が驚きの表情を見せた。

蔵の中はあまり光は入ってこないものの、少年の小さな遊び場ともなっていた。
しかし、その刀を入れてからは何があっても中に入れないように言われていた。
だが、子供は好奇心の塊だ。
やめろという言葉を聞いてはいるのだがその無邪気な好奇心には勝てずに実行してしまう。
















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