パシフィコ

□きのこ狩り
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今日の音楽は先生が急用のため自習です。だから私はこの無法地帯と化した教室で好き勝手やるんです。携帯触ったり化粧直したり睡眠ぶっこいたり。

とそんなことはせず与えられた世界史のプリントをくそ真面目に埋めていた。今日は何だか優等生な気分だった。今ならアインシュタインの定理すら理解出来そう。あ?一番初めの都市国家の象徴?意味わかんねー教科書に載ってねーし。図表図表…って持ってきてねーよあんなくそ重いもん。最新世界史図表とか馬鹿か。かさばるし重いしかさばるし買ってから一回も持って来たことねーよ。開いたことすらねーよ。新品未使用美品だよ。

「ひよし図表貸して」
「死ね」

お隣の日吉さんに助けを求めたら生きることを否定されました。死ねない。日吉のきのこ狩ってからじゃないと私死ねない。日吉のこのこきのこのこーえりんぎまいた

ぶっ叩かれた。図表で。分厚い図表が頭にめり込んだ。これはもうアレだ、顔が歪んで力が出ない。窮地に立たされたパンのヒーロー状態だ。足元にばさりと落ちる図表。わーお何だかんだ言って貸してくれるんじゃん。ひよしやっさしー。ひよしわっかしー。やっさしーわっかし

殴られた。グーで。グーパンが側頭部にメガヒット。図表は拾う隙も与えられず日吉が奪い去った。優しさを褒め称えたのに何この理不尽な扱い。てか図表なかったらプリント出来ないし終わってるしこのやる気の矛先に困るし。だから私は日吉のプリントをカンニングすることにしました。ほんとは自分で謎を解き明かすミステリーでミリタリーでミネラルな躍動感を味わいたかったけど致し方あるまじろ。てか日吉めっちゃ埋めてる。ほぼ終わってる。やったねこれだったら五分もありゃ完璧じゃないスかお師匠さん。

「せんせーチラ見してプリント埋めてたら日吉くんがプリント隠しましたー」
「お前まじうぜえから」
「うんうん。プリント見せて」
「死ねよ」
「だから日吉のきのこ狩り
「黙れ」

睨まれた。切れ長だけど長々と伸びた睫がくりくりした黒目を縁取ってるそんな可愛らしい目で睨まれても怖くありません。むしろもっと見て。穴があくほど見て。心ゆくまで見ればいいさ。さぁ。さぁさぁさぁ。

「頼むから死んでくれ」
「頼むから狩らせてくれ」
「死 ね」
「狩 ら せ ろ」

無限ループって怖いよねって話。何だかんだいって無視しないところが日吉のいいところだ。無視されたら私泣くしね。散々泣き喚いてその後は無気力化するしね。日吉も嫌ってほどわかってるから安易に無視出来ないんだよね。無気力化した私のつまんなさ、もう知りたくないもんね。

でも受け流すことが出来ないとそのうち潰れるぜ。もっと柔軟に行こうよ。きのこだって、また生えてくるんだから気軽に狩らせてくれたらいいじゃないか。君んとこの部長さんみたいにイメージチェンジしようよ。そのきのこカットいい加減マンネリだよ。

「夜九時、いつもの河川敷」
「いきなり何」
「きのこ狩りしたいんだろ」
「日吉のきのこね。というかあそこにきのこ生えてないからね。馬鹿じゃね。そんなこと私だってわかるわ」
「後悔すんなよ」

チャイムが鳴る。日吉は私を置いてプリントを提出しに行ってしまった。

後悔すんなってどういうことだよ。別に日吉がマッシュルームじゃなくなったって後悔しねーよ。むしろ新たな髪型に興味津々だよ。

そんな話を鳳くんにしたらおめでとうと言われた。初めてが野外なんて大胆だねって。さっぱり意味がわからない。きのこ狩りは普通外でやるもんじゃん。狩るのは日吉のきのこ(毛髪)だけどさ。まぁ、外なら髪の毛の後処理に困らないし楽だよね。てか鳳くんの顔がきもい。ニヤニヤきもい。日吉と一言二言話して真っ直ぐこっちに来たと思ったら何この人。日吉のニュー髪型誕生の瞬間に立ち会いたいのかもしれない。全力でお断りします。

「夜のきのこ狩り、楽しんでね」

そう言って鳳くんはおっさんくさい笑みのまま去って行った。本当に何なんだあの人。あんたに言われなくても楽しむよ。超楽しむよ。楽しんで狩るよ。今度は日吉にいやらしい顔で絡んでるし。もしかして鳳くん、日吉のこと好きなのかな。日吉は私のものだから諦めてよ。てかまじで夜楽しみだな。早く授業終わらないかな。

あ、プリント出来てない。




END

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