パシフィコ
□アンダーワールド
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優れた人物とは一体どのような人のことを言うのか。私は、隣で穏やかに眠る彼の髪の毛に指を通しながらぼんやりと考える。彼はとても綺麗だ。そして、頭が良い。それだけでもう優れた人物であるといっても過言ではないのだろう。
呑気に寝息を立てる彼を、私は未だに優れていると思ったことがない。
自分にとって如何に有益であるのか、それに尽きると思う。有益、なんて損得でしか物事を図れない打算的な女だと思われるのは心外だ。私は彼を愛している。もちろん邪推な感情は全く、ない。
私の使う有益とは、どれだけ彼が私のことを把握しているかということである。知り尽くして、私がこれから陥るであろう様々な問題に先回りし解決の糸口を与えてほしいのだ。
誰もそんなことが出来るはずがない。わかりきっていた。それでも私は男たちに求めずにはいられない。易々と有益の定理をこなしてしまう人を探していた。女はいつだって我が儘なのだ。
「寝てねえのか。」
いつの間にか目を開けた彼が問う。私は首を横に振り、やんわりと微笑んでみせた。彼が心配する必要はない。ただ隣で規則的な呼吸をしていれば良い。私が自身を知って欲しいと強く渇望していることを、彼は知らなくて良い。
私の頬に指を滑らせながら微睡んだ意識の中をさまよう彼は、きっと私とは全く異なる意思を持っている。それがたまらなくもどかしいけれど、口にすべきこととはほんの一握りである。私のじれた感情などはそれに値しない。
「起きたら、買い物に行くぞ。」
唐突にそんなことを言い出した彼に少し驚いて見せる。この時私が考えていたことは、親指に食い込んだ爪がじくじくと足を蝕んでいるのでどうにかしたいということであった。そして、彼の突然の提案に驚きではなく落胆を感じていた。