ヘタリア短編

□*腹黒と鈍感と元ヤンと
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生ける屍の如く寝っころがっているなまえ。
開いた窓からカーテンが膨らみ、秋の涼しい風を運んでくる。
扇風機はもうそろそろ、不必要品として押し入れの奥の奥に仕舞われてしまうのだろう。
新鮮で爽やかな風を受け止めつつ、なまえの表情は「沼の底」といった雰囲気だ。

不意にふすまが開き、声がした。

「宿題はどうしたのです、なまえ」
「菊がすればいいよ」

なまえは起きあがるどころか、振り向きもせずに答えた。

「またそのような戯れ言を……」

菊はそう呟きながらため息を付いて、なまえの後ろ姿を見下ろした。
やれやれ、と肩を竦める。

「――それよりなまえ、お客様がきましたよ。」
「ふーん」
「……あなたへ。」

ガバッ!と勢いよくなまえが起きあがった。
強ばった表情で、瞬きを忘れている。

なまえの頬に、畳の目が付いていた。


「お客さん……お客さん?」
「はい、お客様です」

なまえは確信するや否や、表情が華やいでいく。まるで、さっきの死人のような表情が嘘の様に。

「あ、こら―――」

菊が呼び止めるのも聞かず、なまえは慌ただしく階段をおりた。
そしてダッシュで玄関へ向かい―――

「……なんだ、amaz○nじゃないのか……」

ため息を付いた。

「露骨に嫌な顔するなよ」
「ってかよくよく考えたらamaz○nだったら菊が対応してるはずじゃん……」
「いや知らねぇよ」

なまえは再び正気の無い顔になっていき、直立したまま横の壁に寄りかかった。壁となまえと床の間に、三角形の空洞ができる。なかなか器用だ。
なまえは大体、配達員がウチの制服着てるわけないじゃん、と言いかけて、パチリと瞬きをした。

「―――お」

ちぇ、と口をすぼませていたなまえが、指を指して、口をポカンと開けたまま、アーサーを見つめた。あまりにもじっと見つめ続けるため、アーサーは少し戸惑う。血流が、鼓動が早くなる。

「な、なんだよ」
「君は―――」

トクリと、アーサーの心臓が波打つ。

「――中学生の頃名を轟かせたほどのヤンキーだったけど高校生になって元々の秀才さと勤勉さを生かし生徒会長になることで丸くなったがしかし潜在的な荒々しさが取れてない会長じゃないですか」
「どういうことだ」
「そう言う事です」

青筋を浮かべたアーサーに、なまえがすかさず何でもないような顔で言った。
「その拳を下ろしてくださいよ」とふざけたように宥めながら言うなまえに、アーサーが眉をひくつかせた後、ハァ、とため息を付いた。

「……お前なぁ、わざわざ提出物を回収に来た相手にそれはないだろ」
「え?今日土曜日じゃん」
「提出期限は昨日なんだよ馬鹿!」
「あぁ!」
「解ったらとっとと渡せ。」

分かりました隊長!と敬礼して、ドタドタとなまえが奥へと走る。それと入れ替わるように、菊がやってきた。

「すみませんね、わざわざ」
「っ、別にアイツのためとかじゃなくて、たまたまこっちに用があっただけだ。それに、クラスメイトとして、会長として当然の―――」
「おや、あなたが――」

その言葉に、アーサーが菊を見上げた。

「あなたが、アーサー・カークランドさんですか」
「?まぁ、そうだけど」
「なまえから話を伺っております」
「!なまえから?」

アーサーが僅かに視線を泳がせた後顔を下に向けた。表情は明るい。「なまえが……俺の話を……」と嬉しそうに呟いた言葉を、菊は決して聞き逃さなかった。

「―――とはいっても、名前程度ですが。」

そして射抜くように、そっと付け加えた。アーサーは僅かに動きを止めた後、じろりと菊を見上げる。菊は涼しい顔で微笑んだ。

「――そういえば、お前は、何者なんだ……?」

菊は初対面の方に「お前」とは、と言いかけて、止めた。少々刺激を与え過ぎだと判断したからだ。

「私ですか?私は―――しがない小説家です」
「小説……?」

呆気にとられたような表情となったアーサーを余所に、菊は優雅に微笑んだ。
菊は常に、堂々と名乗ることで、相手の困惑するさまを楽しむ。
とはいえ、それは本当の事だ。なまえは彼の小説を読んだことはないし何を書いているのかも、作家名も知らないが、かなり有名な小説家であることは間違いなく、数々の賞を受賞している。
菊はわざとらしく、ため息を付いた。


「なまえは昔から、いつまでたっても慌ただしいですねぇ……」

廊下の奥へと消えていったなまえの順路を、首ごと視線を追わせながら菊が呟いた。

「……昔から?」

訝しげにつぶやいたアーサーに、菊がゆっくりと顔を向ける。

「えぇ、昔っから。」

今度は何かを試すように、「昔から」という部分を強調して菊が言った。
アーサーの表情が、案の定曇る。

「昔から、知り合いなのか……?」
「えぇ、ずっと2人きりで、住んでいますよ」
「――……」

今度は2人きりでと言う所を強調してみる。
アーサーはそんな菊に気付いているのか気付いていないのか、何かを考える様に奥歯を噛んだ。

「……なまえとはどういう関係だ?」

顔をしかめ、疑問と威嚇がない交ぜになった表情で、アーサーが問う。そんなアーサーに、菊は「おや、穏やかじゃないですね」とわざと落ち着いた声で言い、そして微笑んだ。安心させるため、というよりは逆なでするような笑みだ。



「私はなまえの、婚約者ですよ」
「―――っ」

アーサーの目が見開いた。佇む両足の、力が抜ける。
菊はそんなアーサーの表情をじっくりと眺めたのち、ふと微笑み、首を傾げた。




「―――なんて、冗談です」





ふふふ、と声を漏らして笑った。
アーサーは虚をつかれ呆けた後、一瞬だけ誰にも読み取る事が出来ない程微かに、眉間に皺を寄せた。
けれどもその歪んだ表情はすぐに消え、余裕のある表情へと徐々に変化する。

「ふぅん、冗談なんだな?」

おや、と菊がアーサーの顔を見た。
アーサーは鼻で軽く笑うと、顎を下げ、上目づかいで挑発的な視線を菊に送った。
口元は挑戦的な笑みを浮かべ、にんまりと歪む。

「じゃあ、婚約者でも『なんでも』ねぇんだ?」

ス、と菊の目が細められた。
相変わらず生意気で、嘲笑とも読める笑みを浮かべているアーサーを、見下ろす。
その視線はゾッとするほど冷ややかで、冷たい光をともしていた。

そこへなまえが、ぴょっこりと廊下の奥から顔だけを覗かせた。

「ねー!提出物ってなんだっけー!」

2人とも一瞬怯んだ。
なまえは宙を見てあれ?と首を傾げた後、

「あ、進路希望調査か」

と呟いてまた頭を引っ込めた。
菊はそんななまえを見て、フ、と目を細めて笑った。
アーサーはそんな仕草から、つまらなさそうに目をそらす。

なまえは「あったあった」と嬉しそうにつぶやきながら、軽い足取りでアーサーの元に走ってきた。

「はいこれ!」
「……は?」
「……ん?」
「何勘違いしてんだ?そんくらい自分で渡しに行け」
「―――えぇ!?」
「えぇ、じゃねぇよ。当たり前だろ?分かったらさっさと制服に着替えろ」

なまえは忌々しげに頬を膨らまし、渋々同意して階段を上がっていった。

菊とアーサー二人きりになったところで、再び沈黙が訪れた。
不意にアーサーが口を開く。

「……お前、ホントは行かせたくなかったりして?」

菊が、ほんの少しだけ目を見開く。
アーサーはその仕草を見逃すことなく、挑発的に笑みを浮かべた。

「俺と二人きりになるからな?」
「……はて、どうでしょうね」

菊は微笑んだが、目が笑っていなかった。

「おまたせー」

なまえがフラフラと階段を降り、穏やかではない2人の元へとやってきた。元々なまえは空気が読めるほうではないので、ピリピリした雰囲気に気付かない。
呑気に靴を履いて、鞄を持ち直す。

「……おや?なまえ―――」

す、と菊がなまえに近づいた。
そしてそっと手を伸ばす。

「―――襟が歪んでいますよ?」
「え?あ」

ふふふ、と微笑みながら、菊が首元に手を伸ばし、繊細な手つきで直した。
なまえはそっとその手を見つめたのち

「ありがとう」

と言ってふわりと微笑んだ。
菊は微笑み返したのち、そっと頬を撫で、「気を付けなさい」と言って頭を撫でた。
そして―――

「――なッ……!」

アーサーを見てクスリと微笑んだ。
流し目で、見せつけるような笑み。
アーサーのこめかみに力がこもった。


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腹黒菊さんバンザイ\(^o^)/

二度と使わないかもしれない設定↓↓

   
◆菊
小説家。ネタにしようと無意識のうちに探しているため、洞察力が鋭く繊細で、細かいところまで見ている。只稀に、そのためか要らぬ猜疑心を巡らせることも。
◆なまえ
『見ない聞かない関わらない』を貫き通したいお年頃。そのため興味ない事にはとことん倦怠感をぶちまけるが、そのくせ興味あることにはどんな努力も惜しまず、その上滅茶苦茶元気になる。「スリザリンがいい!スリザリンがいい!」→帽子「グリフィンドール!!」
◆アーサー
生徒会長兼なまえのクラスメイト。
よくズル休みをするなまえのプリントや連絡物を届けたり回収したり。
持ち前の荒々しさがたまに出てくる。



    

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