ヘタリア短編

□願わくば
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「ねぇ、菊。去年の今日のこと、覚えてる?」
「もちろん覚えていますよ。」
「……本当に?」

なまえが不思議そうな表情で菊をのぞき込む。
不思議がるのも無理はないだろう。
何故ならそれは、特別でも何でもない、普通の日だったのだから。

「よく覚えてるね〜、私ちっとも覚えてない。」
「……」

感心したようにウンウンとなまえがうなずく。
質問の意味が丸でないように思えたが、菊は空気を読んで触れないことにした。

「でもなんでそんな日覚えてるの?」

キョトンとした表情で質問したなまえに、
フッと菊が不適に微笑んだ。

「千代に河清を待つ身には、五年十年一日が如し、ですから」
「早い話が記憶力がいいってことだね」

いや全然違う。

「でももう五年以上たつのか」

それはこちらの世界にきてから、という意味だろう。
なまえの容姿はちっとも変わらない。
こちらの世界の住人ではないためか
普通の人間とは、時の流れが異なるのだ。

「早いものですね」

なまえに初めて会った日を思い出す。
あの日は非常に驚いた。
なまえがアーサーさんに連れられて、突如ここへやってきた日。
「しばらく預かってほしい」と頼んでおきながら、
不本意だということが容易に読みとれるアーサーさんの表情もまぁ、印象的ではあったが、

「異世界から異世界に飛ばされてなんやかんやあったなまえです」

というとんでもないことを平然と言ってのけた挨拶がなにより印象的だった。

「で、五年前のこの日て、どんな日だったの?」

わくわくとした表情で、なまえが菊を見つめる。
あどけない様子に、菊の心臓が小さくはねる。


「そうですね……貴女が何もない廊下で盛大に転んだ日でしたね。」







「はっはははっ!お、おおお思い出せないからって出鱈目言うのは感心しないなあ!!」
「ふふふ……生憎ですが、出鱈目ではございませんよ」
「う、うそだね」
「おや、顔が真っ赤ですよ?」


くすりと笑って見せればなまえは両頬を包んで「そ、そんなこと……」と情けない声を出しながら、ヘナヘナと眉をハノ字に歪めた。
そんな愛らしい仕草に、再び表情が緩む。



―――あぁ、こんな日が
ずっと続けばいいのに。
そう、永遠に。



「さて、そろそろ夕飯の支度をせねば」
「あ!手伝うよ!」
「では、里芋の皮むきをお願いいたしましょうかね」
「……えー……」
「おや、貴女が手伝うと言ったのですよ?」
「だって……あれ手が痒くなるんだもん……」

呟く仕草に、また―――



―――なまえ、
このままこの世界に永住して
元の世界なんて消えてしまえばいいのに。



          

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