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□貴方のため、俺のため
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ここは...?ああ、また、か。どうやら俺はまた、監禁されたらしい。頭を触ろうとしたら途中でドロッとしたものに触れる。何だ?と見ようとしたが見えなかった。ん?まぁ、いいや。

今回は、何をやらかしたのか?考えてみる。前は幼馴染みのサッカー馬鹿と話していて監禁。その前はチームメイトと出かけて監禁。その度、罵倒されて、身体を滅茶苦茶にされて、見えないところにたくさんの切り傷をつけられた。それが彼からの愛情表現。俺も愛されてるならいいかな、なんてバカみたいなこと考えていると狭い部屋の外からコツコツと足音が聞こえる。

背後から誰か来る、誰かなんて曖昧な表現しなくても解ってるさ。
俺が最も愛する人。

部屋の戸のノブを開ける音、戸の開く音。彼の影が伸びてきて俺の影と重なる。彼の声に振り向くといつものエンジェルスマイルがまるで別人のように変わり狂っている。

「吹雪...??」

名前を呼ぶと彼は狂った表情のまま、何?と首を傾け聞いてくる。俺はここで目が覚めたときから感じていたことを聞く。

「なぁ、吹雪...」
「ん?なぁに?」

─俺の左目、ドコ?─

そう、俺には左目がなくなっていた。でも、痛みはなくて。何がなんだかわからない。彼はニッコリと満面の笑みで

「要らないでしょ?あの目には僕が入っていなかったし。」

と楽しげに話す。不意に下を見ると彼の手には包丁が握られていて意図が見えてしまう。俺は床に座り込む。今日で吹雪と最後なんだ、そう考えると涙と震えが止まらない。泣きじゃくる俺を見て気を良くしたのか吹雪は俺の頭を撫でる。やっぱり、俺はそんな彼から愛を感じる。俺は可笑しいのか?
だから、かな?

俺はその手を握り彼に今まで見せたことの無いような笑みで自らその手で胸を刺した。自分でも何故そんなことをしたかは分からない、ただ、背負わせたくなかったんだ。最後まで愛してくれたお前に。

ジュブッ

血が体内から外に出たがるため、圧迫されたような酷く苦しい感じ。痛いどころではない、大きな声も出して叫びたかった。酸素を取り入れるだけで死にそうなくらい、気が滅入りそうだった。でも、お前を困らせることなんてしたくなかった、唇を目一杯噛む。彼は立ち尽くして目からたくさんの涙を流して、俺を見下ろす。その顔は嫉妬や欲に歪んだ物じゃなくて俺の一番好きだった吹雪の顔で、俺のために流してくれた涙はとても綺麗だった。
目が霞んできた...。愛するお前の顔も見えない。まだ泣いてるのかな?音も声も聞こえない。


吹雪、笑って...?




(また、会えたらいいな)

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