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□泣いてもいいんだよ?
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何で俺は男なんだろう...?何で男同士は結婚が出来ない?子供を孕めない?何で女にはそれができる?

この幼馴染みの結婚式に来て痛感した。そいつに、今幸せか?と場違いなことを聞く。そいつはキョトンとして、すごく幸せだ、上手く言えねぇけどな、と昔から変わらない明るいニカッとした顔で笑って言う。

じゃあ、俺がアイツのことを想っていても無駄なのかな?女と結ばれるのが普通、だけど俺は...。想い人を頭に浮かべては少し悲しくなる。

「キャプテーン、ごめん遅れたぁ。」

と俺の今頭の中にいた人が汗だくで俺の前にいる。

「大丈夫か、吹雪?てか、もうキャプテンじゃないぞ?10年前から変わらないなぁ。」
「そうだね、円堂くん。おめでと!!!あれ、夏未さん!?すごい美人!!」
「あら、ありがとう」

俺が、吹雪...?とポツリ、確かめるように呼ぶと

「ッ風丸くん!!!久しぶり!!元気してたぁ?」

と明るく接してくれる。それから他愛もない会話。でも彼はさっきから飲んでばかり。すっかり上機嫌で、最早、デロデロになってしまった。

円堂は変わってないと言っていたけど、俺からしてみたらずいぶん変わったなと思う...昔は大人しくて人のことを見透かすような瞳で妖艶に微笑むやつだったのにな。今の彼はまるで真逆だ。だんだん呂律が回らなくなってきている。少し風に当たった方がいいだろうな。円堂たちにすまない、と一声かけ、彼を外に連れ出す。

近くにあった公園の休憩所みたいな所に座らせる。テーブルもベンチも夜風で冷たくなっている。その風で髪が靡く。

「あれぇ、風丸くん?どぉして外に〜?二人きりぃ??」

ただの酔っ払いを大人しくベンチに座らせて事情説明。俺は本当に何でこんな酔っ払いを好きになったんだろう?と本気で疑問に思ってしまった。でも、その気持ちも今日で終わりにしようと思う。

彼が変わったからとかではなく、彼も円堂のように素敵な人を見つけて結ばれることだろう。それを温かい目で見られるように。憎しみや悲しみの目では見たくないから。だから、今日で終わりにする。

彼はテーブルに突っ伏している。寝たのか?俺はちょこんと隣に座り、彼に自分の上着をかけてやる。

「吹雪...好き。」

寝ているのなら、と。この届かない想いをこの風にのせるように続ける。

「でも、吹雪はこれから素敵な人と出逢って、その人と、さ、支え合って生きて、くんだよな。」

涙が止めどなく溢れる。さらに自分を追い詰めるように続ける。

「だから、この気持ちは今日で、おしまい。ッ大好きだったよ、吹雪ィ。」

嗚咽まで気付けば零れていて、一人静寂な公園で泣いていた。早く止めなきゃ、と焦るとなかなか止まらなくて、逆に強くなる。10年分の想いが涙となって。彼に対しての想いがなかなか抜け出ない。

吹雪の方を盗み見ると彼は突っ伏したまま。いつ起きるかわからないから、とりあえず前に見える公衆トイレの方まで駆け込んだ。

──吹雪サイド

「...好き。」

ん?これは夢?ついつい風丸くんに会えたのが嬉しくて飲みすぎたぁ。彼は僕を見ると悲しい顔で微笑むんだ。僕、何かしちゃったのかな?
あれー?これは夢なんだよね、にしても誰かが泣いてる声が聞こえてとてもいい気がしない。

「...だから、今日でおしまい」

何だろう、この声風丸くんに似てる。あれ、そう言えば風丸くんが風に当たった方がいいって公園に連れてきてくれて...じゃあ、今泣いてるのは風丸くん!?どうしよう、顔上げづらい。

よく耳をすませば隣で泣いていることに気付く。だんだん嗚咽まで混じり、本格的に泣いている。

何で泣いてるんだろう?何かあったのかな?さっきのくだりでいくと失恋とか?うわぁ、聞きたくなかったなぁ。好きな人の失恋話は嫌だな。しかも泣いてるし、よっぽど好きだったんだろうな...。なんか僕まで泣きそう。胸がキュウってなって痛い。

「...大好きだったよ、吹雪」

そして、ボトッボトッと、彼の涙を落とす音が聞こえる。大粒の涙。僕は、狼狽えた。風丸くんが僕のこと好きだったの?泣いてくれるくらい?すごく嬉しいよ...でも、何でやめちゃうの?好きなら好きなままでいてよ!!!彼はトイレの方まで駆け込んでいった。僕が起きないように考えてのことだろう。

何で僕はこんなに無力なんだ。
もっと早く気持ちを伝えていれば彼を泣かせずに済んだのかな?
彼は何で今まで思っていてくれたのに今日になってやめるって...?
好きな人が出来た様子でもなかったし、今、僕が気持ちを伝えたらそれは遅いかな?ずるいかな?


──風丸サイド

ようやく涙が止まった。鏡で顔を見る。酷い、赤く腫れてしまった。どうしよう...左目は元々隠れているから問題なし。問題は右目。下を向きながらだったら少しは隠れるかな?

そうこう考えて鏡とにらめっこをしていると

「か、風丸くん。」

吹雪が立っていた。俺は困惑し、下を向く作戦でいく。

「起きたか?」
「...うん。上着ありがとう。」

あ、すっかり忘れていた。

「寒くなかったか?」

何の不自然もなく会話を進める。もう涙はでないだろう。だって俺の気持ちは消えたから。大丈夫、いける。そう心で唱える。

「今ちょっと寒いかな...」
「あ、じゃあ上着、着てr」
「抱きしめて?」

え、あ、えーと?何を言っているの?そんなことしたら、俺...いや、仲間の、仲間同士のハグだよな!!!拒否するのも悪いし、えと...うん。

ぎゅ。

「こ、こうか?」
「...もっと強く抱きしめてよぉ。」
「ふぇ!!!」

吹雪が腰に腕を回し変な声が出る。や、駄目だって。心拍数が上昇する...。まだ、酔っぱらってるのか?いや、流石にもう抜けただろう。悪ふざけか?

「ねぇ風丸くん。」
「な、に?」
「僕のこと忘れないで?おしまいにしないで?」

き、聞かれてたーッ。恥ずかしくて手で顔を覆う。でも、聞かれていた上でその回答って...。

「僕も風丸くんが好きだから。終わっちゃうなんて、嫌だ。」

嫌だよ?と俺の顔を見上げてもう一度復唱する。幸せで胸がいっぱい。しかし、これを受け止めてもいいのか、俺は女じゃないし、彼を幸せにはできない。その考えを読んだかのように彼は続ける。

「風丸くん、僕は他の誰でもない風丸くんが欲しいの。それ以外いらない。」
「吹雪...」
「こんなに僕のために泣いてくれた君が愛しいんだ。」

彼は俺の右目を優しく見つめてその瞼にキスを落とす。何で彼の言葉は胸に響くんだろう。

「吹雪、俺をたくさん愛してるか?」
「お安いご用、だよ!!!」

流す涙は嬉し泣きへと変わった。

(夏未、2人は?)
(トイレに入ってから出てこないのよ、どうしたのかしら?)
(...そっか。よかったな、風丸!!!)
(???)

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