short

□Little Hero
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「暑いなぁ...」

蒸し暑い地下鉄の中。ギュウギュウの車内。何でこんなとこに俺はいるのか、簡潔に言うと登校のため。俺は雷門中を卒業し、吹雪と同じ北海道の高校に入学した。通学に便利である地下鉄の近くにアパートを借りて、登校している。

春のまだ肌寒い頃は、あまり暑さを感じなかったが、夏になると嫌でも感じる。この熱気。しかも、今日は人が多いから特に、だ。
吹雪は自宅から自転車で通うとの事で淋しいが登下校いつもは別々。
あいつが隣にいるだけでいつも涼しいんだよな、と思い返す。雪原のプリンスの異名はここからか?なんて考えているだけで余計暑い。その涼しい彼は一緒ではないのだから。

「あー、あっつ。」

ついつい出る文句。上の電光掲示板をみるとあと3駅。まぁ、それくらいなら、なんとか我慢でき...?何かがお尻にあたる。気のせいだよな?何かがとは濁らせたがもちろん触れたものは手だった。何度も何度も触ってくるので、あぁ痴漢か、と冷静に判断できた。

よくあること。俺の髪型からなのか、よく女と勘違いするやつがいて困っていた。俺は小さな声で男ですよ?と優しく教えてやる。男がこの人痴漢です、だなんて恥ずかしくて言えたものではない。勿論、触られるのも嫌なわけで俺はその行動をとった。が、

「あぁ、別に構わないよ。」

なんて野太い中年親父の声が。俺は本格的にヤバイと思い、手を退けようとするが回りは人だらけ。お得意の疾風ダッシュも使えないわけで。でも、そんなヤツの手も止まらないわけで。

「触るな、汚らわしい。」

と罵声を浴びせるが、逆に相手を刺激してしまい、ヤツは俺のベルトに手をかける。

「な、何をする!!!」

相手は俺の言葉など聞かず、ただ、ベルトを外そうと手を動かす。俺は今にも泣いてしまいそうだった。こんな変態に触られたくない。汚れる...吹雪、ごめんッ!!!キュッと目を瞑ると俺の後ろから冷気が...

「ねぇ、おじさん。これ、痴漢って言うんだよ?...やめなよ。」

え?吹雪...?本物?何で?

「風丸くん、大丈夫?あと、3駅だからね、もう痴漢はいないからね。」

優しく慰めてくれる彼は本物だった。彼は駅に着くと俺を落ち着けるように近くの椅子に座らせた。

「吹雪...ありがと。」
「ううん。風丸くんのためなら。」

怖かった。痴漢があんなに恐ろしいなんて知らなかった。でも、吹雪が助けてくれたこと、嬉しかった。

「学校、行かなきゃ...」
「もう平気なの?」

吹雪がそっと、肩に触れる。俺は小さな悲鳴を上げ、吹雪と距離を取る。それは無意識なもので、ハッと気付いたとき彼は寂しい顔をしていた。

「あ、えと...。」
「じゃあ、学校行こう?」
「ッ...ああ。」

訂正をしようとしたが、言葉が出てこず、吹雪に遮られる。怒ったのか?それとも、悲しい思いをさせたか?その後、俺たちは学校まで無言だった。

──吹雪サイド

今日は地下鉄にして正解だった。朝から嫌な予感はしていた。でも、登校中の彼を見てあまりにも普通だったから何も警戒してなかった。
馬鹿だった。地下鉄は思いの外人が多く、風丸くんを少しの間見失った。見つけたとき、彼は泣きそうな顔をしていた。何をしていたんだ。何でこんな...。予感は的中した。風丸くんが時々、女の人と間違えられて触られることはしょっちゅうあると聞いてはいた。彼も追い払える、と考えたのだろう。
結果、こんなことになるなんて。僕がいたのに、何も出来なかった。僕がいたのに、彼にあんな顔をさせてしまった。
助け出すことは出来た、が、もう遅い。彼の心には深い傷が出来てしまった。僕はそんな彼を宥め、肩に手を置くと彼はビクッと体を震わせ、小さな悲鳴をあげた。彼は自分の行動を慌てて訂正しようとしていたが僕は敢えてそれを遮った。あの痴漢を思いだし怒り、風丸くんの顔を見て悲しくなった。
そこから学校に着くまで僕らは言葉を交わすことはなかった。
学校に着くと、クラスが違うため教室の前で軽く手を振り、別れる。
先程、風丸くんに拒絶され実は少し傷ついた。彼が無意識に反応していたことだって、そんなのはわかっている。わかってはいるけど、寂しかった。あの痴漢のせいで。

「吹雪、んな暗い顔して何かあったか?」
「あぁ、晴矢。おはよう。何でもないよ。」

僕に話しかけてきたのはクラスメートの南雲晴矢。いつも僕の愚痴やら相談を黙って聞いてくれる良き仲間さ。だからかな?僕が暗いなんて分かっちゃうのは。
でも、これは風丸くんと僕の問題だから今回ばかりは君に頼ることはできない。

「ふーん?まぁ、お前が何でもないってんならいいや。」

深追いをせず流してくれるのも彼のイイトコロ。
そんな晴矢と何気ない会話をしていたらチャイムが鳴り着席。
またいつものつまらない授業が始まる。勉強なんか頭に入んなくて、ただ風丸くんの泣きそうな顔だけが僕の頭を占める。

あっという間に昼休み。昼食はいつも僕と晴矢、風丸くんに、彼と同じクラスの涼野風介の4人で食べている。今朝のこともあってかいつも煩い僕と風丸くんは静かで気まずい。晴矢はなんだなんだ?と僕と彼をキョロキョロみる。

「なぁ、風丸。」

と風介の気の抜けたいつもの声がシーンとしていた空気に突き刺さる。

「なんだ?」
「ふと今、気付いたんだが。今日、お前変じゃないか?」

空気の読めないやつとはまさにこの人を指すだろう。気まずい雰囲気をより濃いものにしたよ、この厨二。
晴矢の反応は、風介、遅いよ、と冷めた視線。でも、最終的には流石風介、の一言で片付いてしまう。

「そ、そうか?変、かぁ。」

と風丸くんはボーッとしている。大丈夫かな?

「風丸くん、どこか調子悪い?大丈夫?何かあったらすぐに言ってね。」

僕は心配になって身を乗りだし彼に問う。彼は柔らかな表情で、平気だ、と答えてくれる。
僕は安堵した。

「今日は僕も地下鉄だから一緒に帰ろう?」

彼は少し下を向き、うん、と小さく頷いた。
放課後、校門まで行くと、風介と晴矢もよくわからないけど一緒に帰ることになっていた。人数が多い方が助かるけど。ちょっと複雑。

─風丸サイド

SH。早く、帰りたいな。後ろの席の風介に、私も地下鉄だから共に帰ろう、と親指を立てて耳打ちをする。俺は、なんとなく事情が分かって、ありがとう、と小さく答える。
世の中には男のモノを触って喜ぶオッサンがいるのか...絶対、もう負けない。吹雪にあんな顔させたくないし、自分をこれ以上汚したくない。
にしても、吹雪と帰るの久し振りかも、と今朝のことを忘れるためポジティブなことだけ考えるようにした。
ふと、廊下を見ると吹雪がこちらに手を振る。"先に玄関に行ってる"と軽くジェスチャーをして陽気に走っていった。
号令がかかり、みんな一斉に教室から飛び出す。

「吹雪早いな...」
「風丸、私たちも急ごう。」
「ああ。」

今日は掃除も何も当番がなかったのですぐに帰れる、と俺らしくなくはしゃいでいた。
玄関まで走って行く。吹雪はニコッと微笑む。
そして一人いないことに気がつく。

「吹雪、私の晴矢はどこへ行ったんだい?」

すかさず恋人の風介が聞く。

「掃除だってー。フフッ」
「あのチューリップ...」

と風介は苛立ちを隠す気すらなかった。

「すまない。あの赤い植物が空気読めなくて。」

お前ほどじゃないだろ、というツッコミを堪え、気にするな、と優しく応対する。

──晴矢が来たのはそれから数十分後。風介は、貴様ぁぁああ!!私をどれだけ待たせる気だぁぁああ、と案の定晴矢の胸ぐらを付かんでブンブン振り回す。俺と吹雪は顔を見合わせいつもの光景に苦笑い。

「ところで風丸の家はどの辺にあんだよ?」
「なんだ、晴矢。私というものがありながら...まさか、浮気か?」
「何でだよ。」

いつものガゼバンコント。それを華麗にスルーし、質問に応じる。

「ここから5つ先の駅。」
「因みに僕の家の近く。」

吹雪の補足説明が付いたが、まぁ、そういうことだ。物件も、吹雪の家の近くで交通に便利という条件のもと探していたわけで。

「私たちは3つ目だ。意外と近いな。」
「今度、遊びに行くから!!!」
「風介ぇ、晴矢が夜這いに行くって」
「は、晴矢!!!?」
「言ってないだろ!!!ブリザード組嫌い。」

晴矢は拗ねたが、みんな、俺を元気付けようと何かしらしてくれるのは、申し訳ないようで有難い。素敵な仲間に支えられて、幸せだ。

ホームにいくと、帰宅時間だからか学生が沢山いた。朝のように混んでいる。少し朝の光景が重なって見えた。怖い。
そんな考えも束の間。吹雪が俺の腕にしがみつく。晴矢たちはそんな俺らを冷やかす。いつもの俺なら突き飛ばしたり、乱暴に振りほどいたりしただろうが、今はこの吹雪の優しさが身に染みる。

「お、地下鉄来たぜ?お二人さん。」

晴矢がそういうと同時にビュンと風が切る。人が中に詰め入るように入ってく。俺たちも流されバラけそうになったが、必死で俺の腰や足に巻き付くカオス二人は何とかはぐれずに済んだ。吹雪はもちろんのこと意地でも俺の腕に引っ付いていた。この夏に男三人に抱きつかれて暑苦しいったらない。

「何とか乗れたな」

足に引っ付いていた晴矢が立ち上がり頭をガシガシと乱暴に掻く。風介の方はというと狭くて立てないという。何て間抜けなんだと、ため息混じりに告げ、手を差し出すと

「いや、此処こそが私のベストプレイス!!!」

強がってそういう風介に吹雪と晴矢の蹴りが入ったのは言うまでもない。
晴矢たちは先に降りた。俺と吹雪だけになり、会話も消えた。何を話せばいいのか出てこなかった。ただ、謝りたい気持ちでいっぱいだった。だが、先に吹雪の方から

「風丸くん、ごめんね。」

なんて謝られる。

「俺が、不注意だった!!ごめん。」
「何で風丸くんが謝るのさぁ?」
「ち、痴漢にあったなんてダサいし、気持ち悪いだろ?」
「そんなことない!!!よし、決めた!!!僕、チャリ通止めるよ。」
「いや、それだと吹雪が」
「もう決めたし。風丸くん守りたいし。」

そんないつもと違う男前な吹雪にときめいた。俺のこと守ってくれるなんて嬉しい。純粋にそう思った。最近すれ違い気味だった俺たちがこうしてまた肩を並べて歩けるなんて、不覚にもこの事件に感謝だ。

「明日から迎えに行くね♪」
「え、家まで来るの?なんか悪い気が...」
「僕が良ければそれでいいじゃない?」

そう彼が笑うと急にひんやりとした冷気が一帯に放たれた。暑かった熱風を瞬時に冷ますような。
少しその空気に浸っていると彼に包まれているような変な感じがした。嫌なわけではなく、安心するような、優しい感じ。

「ずっと、ずっと、守るから」
「あぁ、宜しく。」

冷気の余韻に浸りながら、俺より少し小さい騎士の絡む腕にそっと手を重ねた。





(なぁ、風介)
(?)
(俺らの登場の意味は?)
(えっと、こ、これぞ、友情出演!!!)
(...出オチ、乙。)

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