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□リミット24時
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終わったんだ。長かった宇宙人との戦いも、自分との戦いも。なのに、なんでだ?この埋まらない、何かもの寂しいこの喪失感は…?
俺は苦しみから解き放たれた、楽しくサッカーが出来るようにもなった。でも、今日でみんなと離れると思うと、彼と離れると思うと胸が締め上げられるように痛い。彼の顔が頭から離れない。何でアイツのことなんか…。

最後にみんなで狭苦しくキャラバンで寝ることになった。俺の隣には吹雪が、すー、すー、と寝息を立てて眠っている。そんな中、俺は眠れずにいた。最後は悲しい。彼の顔を見る。幸せそうな顔で寝ている。やっと、地元に戻れるもんな。そこでクラスメートや近所の子たちとサッカーでもやるのだろうか、楽しく談笑でもするのだろうか。そんな日常を過ごしていくうちに俺のことなんて忘れてしまうんだろうな。彼の頭をそっと撫でる。ずっとこうしていたい、忘れて欲しくない。そんなことどうして思うのだろうか?

「なんでこんなにも悲しくなるんだろうな…。」

誰も起きていない、自分に向けての問いだったのに前の席から声がかかる。

「それはお前が吹雪のこと、好きだからなんじゃねぇの?」
「…綱海?」

そういうと、小さい声で、おう!と答えて、前座席から頭をヒョコッと出してくる。コイツとはあまり話したことがない、何せ、俺が抜けた後から入ってきたやつだから。俺の何を知っているんだ?自分でさえ理解できていないこの俺を。

「それはどういうことだ?」
「そのまんまの意味!お前が吹雪のこと好きだって。」
「なんで、そんなことが言えるんだ?第一、吹雪は男だぞ??」

自分では答えが出ていたんだ、自分でもここまでは導き出していたんだ、だけど、それを認めてしまっていいのか、そこが問題だった。それさえ解消すれば、俺は素直にこの気持ちを認めて、そして、告げるだろう。だが、そのことでもし、吹雪に迷惑でもかけたら…、最後なのに、嫌なイメージで彼に残ってしまったら…。それならば、いっそのこと彼の中から消えてしまった方がまだマシだ。
キツく睨むように彼を見据えると、そう睨むなって、と軽いテンポで返してくる。

「あのよ?俺はお前とまだ会ったばっかしだし、お前のことなんてぶっちゃけ、全然わかんないけどよ。」
「?」
「俺にも傍に居たいヤツがいる、お前にもそれが出来たんだ、って顔見りゃわかるわ。だって今のお前の顔みてみろよ」

そう言って彼はキャラバンのバックミラーを指さす。俺が視線を向けると同時に、ほら、と言って続ける。

「泣きそうだぜ?」

自分ではそんな顔をしていたつもりはなかった。言われてから、変えようと思ってもなかなか変えられない自分がいる。

「変えようとすんなって。」
「は?」
「それがお前の素直な顔だろ?気持ちが出ていて、悪くない顔だぜ。」
「綱海…、俺はどうしたらいいだろう。」

彼に聞くまでもなく、やはり答えは出ていた。

「周りの目なんて気にすんなよ!そんなこと、海の広さに比b(略)
俺だってな、コイツと離れるのは正直きつい。」

いつものお決まりの言葉。そんな言葉が胸に染みいる。
ここからは見えないが隣に居るであろう人物に優しく微笑む。俺より1つ年上と言うだけでこうも顔つきが違う。でも、彼の顔も俺と一緒ですこし悲しげな表情をしていた。

「ありがとな、綱海。最後にこうして話せてよかった。」
「おう!俺もだ。」
「俺も気持ちを伝えてみるよ。」
「ああ、頑張れよ!したら明日も早ぇし、寝るか!」

そういって彼はあくびを一つ。不思議な夜だった。自分の気持ちを認めることが出来て、会ったばかりの奴に励まされて。余計、離れるのが辛くなった。

翌日

「…ん、もう朝か。」

眩しい朝日によって起こされる。すると窓側に座っていた吹雪も目覚めたらしく、目を擦りながら、おはよう、風丸くん、とまだ眠たげな声で挨拶。おはよう、吹雪、と俺も返すと、彼から提案が出た。

「ねぇ、風丸くん。ちょっと朝のお散歩でもしない?」

いつもしているのだろうか、そう考えると老人臭いな、と内心笑った。俺は髪を結び、

「いいな、行こうか。」

みんなが眠る中、静かにキャラバンを降りた。

うーん、と大きく背伸びをすると、吹雪も真似して背伸びした。彼は俺にどこへ行こうか、と言って微笑む。俺は、どこでもいいよ、と答える。適当に答えたわけではなく、吹雪の行きたいところならもちろん、俺も行きたいところのはずだ、と思ったから。

「ホントにどこでもいいの?」

歩き出した彼は振り返り、聞いてきた。俺は、なるべく近くな?と付け足すと、彼は心底楽しそうに、じゃあねぇ…とこっちに走って向かってくる。

「うわっ!!吹雪??」

俺は彼が凄まじい勢いで来たのでぶつかる、そう思い構えていたら予想外なことが起きた。俺は吹雪に抱きつかれた。

「えへへ。最後の日、だし…いいよね??」
「は、え?う、別にいいけど、何で?///」

俺にとっては嬉しすぎて夢なのではないかと疑ったが、彼から伝わる温かさ、心臓の鼓動からそんな疑いは一瞬で吹き飛んだ。でも、何だ、この展開。あ、神様がくれたチャンスなのか!!ここで言ってしまえってことか…?
俺は深呼吸をし、吹雪の顔を見る。

「うわ、近いぞ、吹雪!!///」
「え?あー、ごめんね?風丸くんの顔、綺麗だなぁって考えてたらいつの間にか、ね。」

せ、折角、気持ちを整えて、よし行ける!と気合が入った所なのに、気が抜けてしまった。

「はぁー…。」
「風丸くん!昨日はありがとう!!」
「っえ??何?昨日??俺、何かしたか??」

急に“ありがとう”なんて言われて途惑う。な、何かしたっけ。あー…、思い出せない。というか、昨日は、“隣、いいかな?”“ああ、いいぞ?”くらいしか会話した覚えはない。誰かと間違えているんじゃないか?

「あれ、忘れたの?僕は嬉しかったけどなぁ。」
「?」
「僕が帰っちゃうと寂しい?悲しい?」

ぎゅーっと強く出し締められたかと思うと、おちょくった調子で、そして、楽しそうにそう聞いてきた。パニックになって、しどろもどろになりながら、否定の言葉を探す。何でバレたんだ!?綱海が言ったのか??と彼が過ぎったが朝、彼は爆睡していたし、何より話す暇もないまま外に出たのを俺が一番よくわかっている。
吹雪はそんな俺の様子を楽しそうに下から見上げる。

「フフ、昨日実は途中で目が覚めちゃってね、偶然聞こえちゃったんだ♪」
「な、な、」
「その時、嬉しかったよ!やっと、気付いたんだなって。」
「え??気付いたって?」
「僕、風丸くんのこと大好きだよ!出逢った時から。」

そう言って俺の胸に頭を擦り寄せる。そんな言葉を聞いた俺の顔は当然真っ赤に呆けていて、間抜けな顔この上ない状態だ。

「今まで言えなかったんだ。君に嫌われたくなかったから。嫌われるくらいなら、いっそ友達のまんまでありたかったから。」

俺と同じこと考えていたんだ…。俺も好きだ。言えなかった。嫌われたくなかった。同じだ。

「僕の気持ち、みんな知ってたよ!鈍感そうなキャプテンもね!こうして最後に伝えられてよかったよ!風丸くんの気持ちも分かってよかった。」
「俺も、吹雪のこと、す…///」
「無理に言わなくても大丈夫。不器用な風丸くんの気持ちは、昨日しっかり聞いたから、ね。」
「吹雪…」

恥ずかしくて目を瞑る。まるで女みたいだ、今の俺。吹雪よりも背は高いのに支えられているのは俺の方で、うまく言葉に出来ない俺に呆れることなく優しく包んでくれる。こんなにも頼りになる奴だったんだ、吹雪は。彼と離れるのは悲しい。遠距離恋愛なんて続くかどうかわからない。でも、俺の吹雪のこと好きだって気持ちは一生絶えないと思う。吹雪もそうであってほしいな。

「さぁ、キャラバンに戻ろう?」
「さ、散歩は、いいのか??」
「フフ、風丸くんの中に飛び込みたかっただけ。」
「?」
「口実、だよ。」

不敵な笑みを浮かべて、俺の手を捕らえる。キャラバンの中からみんなが覗き見ていたことや、その後みんなに冷やかされることなど知れず、彼とあと残り僅かな時間で何を話し、何をしようか緩む口元を隠しながら彼の手に引かれていく。


代表選抜にて。

(えっと…)
(また、会ったな…吹雪。)
(短い別れだったね…、風丸くん。)
((…気まずい))

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