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□デート日和
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「綱海さーん!!!遅れてすみません!!」
「遅ぇーぞ?っま、いいけどよ。」
今日は綱海さんに練習に付き合ってもらう日、だったのに俺が寝坊したせいで30分も待たせてしまった。当の本人は大して気に止めず、いつもの台詞を口にした。
「すいません。」
もう一度、頭を下げ謝ると、いいっていいって、と肩をパシパシ叩く。俺は頭を上げる。今まで遅刻した事しか頭になかったが俺の視界に彼が映ると顔が赤面した。
「綱海さんの私服カッコイイですね。」
チェックの上着の中に少しパンクの効いたチェーンの首飾りと髑髏のインナー。下はシンプルなジーンズ。バックはパンパンに膨らんでいて何を詰めているのやら、あまりマッチしなかった。これが練習のスタイルなのだろうか、と思ったが、カッコよかったから敢えて触れない。
「立向居は、なんつーか犬みたいで可愛いな。」
多分、褒め言葉なのだろう。俺からしたら可愛いの表現はやめてほしいが...綱海さんが青年だとすると俺はまだ少年。そう感じるのも自然なのだろう。
「あ、ありがとうございます。」
一礼すると彼から質問が降る。
「どこで練習するか決めてきたか?」
「えーと、河川敷がオススメだと...」
「オススメ?」
「円堂さんに聞いたんです!!」
そういうと少しムスッとした顔で、また円堂かよ、と溢す。俺はしまった、と気付いたときには彼は拗ねた子どもの様な顔でその場にしゃがみこんでしまい、手遅れだった。綱海さんと一緒にいるのに他の人の話をしちゃダメですよね!!!
「あの、綱海さんが一番ですからね?」
少しかがみ、綱海さんと目線を合わせてから言葉を紡ぐ。こんなありきたりな台詞で綱海さんの機嫌が直るわけないと思っていたが彼は顔に輝きが戻り
「ホントか?」
と。俺はもちろんです、と慌てて付け加える。すると、
「よし、河川敷行くぞ!!!」
とすっかり上機嫌。綱海さんの扱いがわかってきた。彼は手を差しのべる。手を繋ぐ、と取っていいのだろうか。俺はおずおずと手を伸ばす。その手を彼はギュッと握り、ニカッと笑う。
河川敷につくと直ぐ様、パンパンなバッグからサッカーボールを取りだす。あぁ、ボールが入っていたのか...。ボールを入れるなら専用のやつに入れてくればいいのに。先程のバッグの中は空のようだ。
「いやぁ、ボール入れるやつ、買ってなくてよぉ、そこら辺の袋に入れてきた。」
バッグを袋というあたり、あまりファッションはこだわってないみたいだ。それでこそ綱海さんだな。少し嬉しかった。
「立向居!!やろうぜ!!!」
そういって上着を脱ぐ。中の髑髏はTシャツだったらしく、下のジーンズも脱ぐと短パンのジャージだった。俺は先程とのギャップがありすぎてお腹を抱えて笑った。
「な、なんだよ!!!」
彼は何に対して笑われているのか分からず不審げに俺をみる。面白いな。
「綱海さんは、綱海さんのままで居てくださいね?」
「?」
彼の表情は分かりやすい。今の彼の状態は俺の言っていることが分からず頭にクエスチョンマークを浮かべて首を傾けているといった随分可愛らしいもので。そんなこと言ったらきっと怒られますね。
彼は俺のこと犬みたいだ、と言った。でも、俺は綱海さんの方が犬みたいだと思った。
仕草や行動はもちろんのこと、素直で純粋無垢なところが特に。
彼はサッカーボールを持って俺の準備を待っている。俺はキーパーグローブをキュッとキツく手に嵌める。
「綱海さん、サッカーしましょう♪」
彼は大きくボールを蹴りあげる。それを見るのに俺は首を上げる。眩しくて目が眩む。空は綺麗に雲一つ無くて晴天。そのボールに飛び乗る彼の背景にぴったりだった。
あぁ、なんて素敵なデート日和。