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□ファーストネームで呼んで!!
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「でねー、それでヒロトがねー」
「相変わらず、お前らは仲が良いな」
「俺とヒロト?いやいや、風丸だって上手くいってるみたいじゃん?」
「そうか?」
「あ、ねぇ。風丸は吹雪のこと名前で呼びたいとか思わないの?」
「...え?」

──そんなやりとりをしたのは、つい先日のこと。同じイナズマジャパンのチームで良き理解者の緑川に興味津々の様子で聞かれたことだった。それに俺はなんて答えたか覚えていない。多分、曖昧に流したのだろう。緑川は名前でなかなか呼んで貰えないのが悔しい、と嘆いていたが。

あまり、考えたことなかったな...。

俺と吹雪は付き合い始めて2ヶ月。恋人らしいことは、彼の手が早いせいか、全てやり遂げてしまった。でも、意外なことだと思うが、名前呼びは一度もしたことがない。皆から鈍感だと言われる俺だから気が付かなかったのか、この日常に充実していたから気が付かなかったのか。両方とも当てはまる気がする。そこでふと、考えが過った。

吹雪は気付いていたのだろうか?いや、あの吹雪が気付かないなんてことあり得ない。とすると、敢えての苗字、なのだろうか?彼は苗字で呼ばれた方がいいのか?
俺はいろいろな思考を巡らせていく内に呼ばれてみたい、呼んでみたいな、といつもの自分とは正反対のことを思い込んでいた。そして、彼に名前で呼ばれた自分を想像した。きっと口を無意味に、無意識に開閉し、顔に赤が入るのだろう。今、そんなことを考えただけで、もう顔に熱が籠っているのだから。彼はどうせ余裕な顔で俺の様子を見るのだろう。なんだか不公平だな...。

そんなことを考えてから数日が過ぎた。その数日間はずっと上の空で鬼道に、どうした?と何度も心配をかけてしまった。原因があまりにもくだらない事なので誰にも言わなかった。いや、恥ずかしくて言えなかった。緑川は何となく気づいているようだったが。
俺は最近、忙しくて読めない本の山を退治すべく自室に籠った。今日は1日練習がない日。そのためか、みんな何処かへ外出したり、円堂に至ってはやはりサッカーをしていたりと俺のように宿舎にいるものは少ない。そんな中コンコンと部屋にノック音が聞こえる。誰だろう、円堂がサッカーにでも誘いに来たのか?俺がドアノブを下ろすより早く、来訪者が勢いよくドアを開ける。勿論その勢いでゴンッという鈍い音と共に、額に酷い激痛が。あれ?何かぶつかったぁ?なんて何も知らない呑気な声が聞こえた。俺の予想はハズれた。その声は紛れもなくアイツのもの。

「吹雪ぃ〜?」
「な、なんか怖いよ、風丸くん。あと、オデコが真っ赤...あ。」

イライラしている様子を隠すように、にっこりと笑顔を張り付けて出ると、察しが良いのか自分の仕出かした事に気が付く。

「...ごめんね。今、救急箱持ってくるから!!!」
「いや、そこまでいなくても、」
「あとが残ったら嫌だから!!!」

そういうと直ぐ様、来たばかりの部屋を飛び出し、自室に戻った。なんだか悪いことしたかな?額を少し撫で、鏡を見ると彼の言っていた赤から青に変色していた。青たん、か...?
急いで救急箱を持ってきた彼だが、青たんにどう対処するのだろうか?湿布か、いや、逆に勿体ない気が。

「あれ!!?青たん?どうしよう、湿布貼る?」

案の定、彼も困っている模様。青たんなんて放っておけば治るもんだし、救急箱は不要だったな、と思う。

「いや、いいよ。そんなに痛くないし。すぐ治るだろ?」
「ごめんね?」
「いいって。それより、何か用があったんじゃないか?」

救急箱は一先ず、近くのデスクに乗せる。立っているのもなんだから、と言ってベッドに座るように促すと、彼はニヤニヤした顔つきで、誘ってる?なんてバカな発言。お前と違ってそんなに発情してない、と否定すると、えー、と残念な声を漏らした。横道に逸れようとする彼に早く本題を話せ、と言って彼の隣に座り込む。

「ある情報筋から面白い情報を聞いてね、」
「誰だそれ?...つか、喋り方どうした。」
「少し雰囲気作ったの!!それで、風丸くんが名前で呼んでほしいとか、なんとか。」

...はぁ!!?///

何で?誰にも言ってないし、その話のもとは緑川だから知るハズも...。

「...ヒロトか?」
「当たり♪緑川くんから聞いたのを僕にそのまま伝えてくれたよ!!」

大きなため息を吐く。想像するに最近、上の空だった俺の様子が気になり、緑川に聞いたが口が固いため聞き出せず、ヒロトを利用して聞き出したのだろう。緑川はヒロトが弱点だからな。俺の不自然な原因もアイツは気付いていたとは思っていたが。すると彼は、で、と話を続ける。

「それって本当?」
「...よくわからない。呼ばれてみたいな、と考えたことは考えた。事実。けど、俺らだけ名前で呼びあってたら逆に恥ずかしいし、ギクシャクしそうだから、どっちがいいのかわからない。」
「じゃあさ、」

彼は足をブラブラと振って、俺の顔をジッと見る。そして、ニコッと笑むと提案した。

「2人きりの時は名前で呼んで?」
「...え?」
「僕も2人きりの時は呼ぶから!!ね、一朗太♪」
「なッ//」

ナチュラルに名前を呼ばれてしまって、どうしていいのか分からない。この間の予想通り、顔を火照らせてしまった。

「あれ、顔が赤い...。あ、ときめいちゃった?」
「ち、ちが!!!...くないかも。」
「〜ッ//素直な風丸くん可愛い!!!」
「名前で呼べよ...士郎。」

そういうや否や直ぐ様、腰かけていたベッドに押し倒されてしまう。優しく唇を重ねる。一瞬。彼が妖艶に微笑む、そんな表情が見えて、ハッキリわかった。

「呼んでほしいの?」
「...ああ。」

コイツは最初から気付いていた、いや多分敢えて、名前で呼ばなかったんだ。俺が気付くまで、俺が懇願するまで、わざと。

「今日はここまでね!!だってまだお昼だもん。」

別に俺は何もいっていない。勝手な解釈...でも、そんな顔をしていたのかもしれない。あぁ、何でこんなにも吹雪の思い通りなのだろうか。時々、素直になってみても、彼の名前を不意打ちしても、彼は何も動じない。彼の想像通りなのだろうか。いや、きっと、そうだ。先程の一瞬の笑みが消えない。

「当たり前だ。これ以上するつもりか?」
「ん、夜ね♪」

おい、と俺がツッコむと、彼は先程とは程遠い、無邪気な笑みで

「今日は折角の休みなんだから、外に出ようよ!!」
「?」
「何か美味しいもの、食べに行こう?一朗太。」
「ッ///」

また不意打ちを食らい、動揺している俺じゃまだまだ彼に敵いそうにない。彼は俺の手を引く。ベッドから降りて、そのままダッシュ。彼と走ると心地よい風が俺を包んでくれる。
読もうと思っていた本は、また、今度でもいいか。今はコイツと一緒に...士郎と一緒にいたい。

(一朗太はどこがいい?)
(...士郎の行きたい所でいい//)
(ご、ご飯食べるなら、イタリアエリアがいいよね!!!//)
(ああ!!!)

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