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□ぐ 偶然の必然*
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(吹風 風丸視点→吹雪視点)

「そそそそ染岡くん、飛行機怖いよ!!」ベタベタ
「なんだ?乗ったことないのか?」
「う、小さいときに1回だけ…。エイリアン退治の時はキャラバンだったし、ここまでは船で来たし…。」ベタベタ
「お前、船で来たのか!…、まあ、気分悪くなったら言えよ?」
「うん、ありがと。そうするね。」ベタベタ

日本代表選抜が終わって、アジア予選が終わって、そしてFFI本戦も終わってしまった。俺たちイナズマジャパンは日本へと帰国する。みんなは優勝の感動を何度も何度も携帯で大切な人に告げる。俺も両親と一番の後輩に告げたところ。胸がいっぱいで幸せな気持ちに浸っていた俺の耳に聞こえた会話がこれだ。
何だ、あれ。何でアイツ、染岡と一緒にいるんだよ…。最後なのに。俺の隣に座ればいいのに。怖いんだったら、俺と一緒にいればいいのに。もう!つか、ベタベタしすぎだろ!そんなに俺、頼りないのかな…?彼が染岡と一緒にニコニコ笑いながら話しているのが嫌なんだ。胸の中がムカムカして、でも、少し寂しくて、チクチクと奥の方を刺されていて…痛い。俺はその場を少しの間離れた。この飛行機で帰るのだからまた、その場所に戻るのだけれど、俺には気を休める必要があったため離れた。
トイレに駆け込むと円堂が携帯で楽しげに母親と連絡を取っていた。じゃあな、の声で携帯を畳む円堂。俺は黙って鏡とにらめっこしては溜息をつき、の繰り返し。

「風丸どうした?なんか暗いぞ??せっかく優勝したのに、そんな顔すんなよ。」
「俺、そんなにひどい顔してるか?よくわかんないや…ハハ。」
「おいおい、またダークエンペラーズになるんじゃないか?」
「それはないな。」

そっか、と微笑む彼は俺を元気づけようといろいろ話してくれた。だから俺も、話した。彼は、やっぱり吹雪絡みか!と笑った。そんな彼を不審げに見た俺に

「吹雪のこと以外で悩んだ事なんてないだろ?」

いつものスマイルで照りつける。この幼馴染には適わないな。彼は、そろそろ離陸するから席に戻ろうぜ、と俺の手を引いていく。小さい頃からこの手にどれだけ救われたか…。
席に着くと、俺の隣に円堂がドカンと座り込む。幼い日を思い出す。

「そういえば、幼稚園くらいのとき、俺が初めてサッカーした時のこと覚えてるか?」
「ああ、近所の公園でやったよな。半ば強制的に。」
「自覚してたんだ…」

シートベルトを付け、リラックスした体勢を見つける。俺と円堂はいつの間にか、呆れながら思い出話にふけていた。

「あの時、もうひとりいたよな?」
「…もう一人??」
「ほら、お前の初恋じゃん!」
「…初、恋?」

円堂の言う“もう一人”の存在の記憶が薄れていてよく覚えていない。女の子と遊んだ覚えはないし、初恋なんて覚えてない。ただ、円堂がサッカーボールを持ってきて俺にサッカーを教えてくれて…あれ。ホントだ。誰かもう一人いた…。でも、上手く頭に浮かばない。ただ、白い肌に目が奪われて、色素の薄い髪が風で揺れて、その子の笑い方は穏やかで綺麗だったんだ…顔が出てこないのにこう思うのは可笑しいだろうか。

「染岡くんは家族で旅行とかいくの?」
「ああ、まあな。飛行機もよく乗るぜ?」
「うわあ、すごい!僕はこれで2回目…」
「そういや、さっき、小さい頃に1回乗ったって言ってたな。」
「うん、アツヤもいて、二人で馬鹿みたいにはしゃいだのを覚えてるよ。」
「どこ行ったんだ?」
「東京の稲妻町だよ。親戚のおばさんの家に行ったんだけど、僕とアツヤが迷子になって。最初は二人でいたんだけど目を離した隙にアツヤはどっか行っちゃってて。」
「一人で大丈夫だったのかよ?」
「うん、近くの公園で遊んだんだ…。二人の男の子と。」

――「円堂ぉ!!待ってよぉ。それ何??」
「ん?これ??サッカーボールだよ!!倉庫から見つけたんだ!えい!えい!」
「うわあ!!すごぉ。何それどうやんの?」
「これはリフティングっていうんだ!あ、あそこにも、子供いるぜ!!」
「あ、ホントだ。綺麗な子だなぁ。」
「おーい!一緒に遊ばないかぁ??」
「?僕??」
「うん、君だよ!俺、一郎太。」
「俺は円堂守!!」
「僕は士郎…。」
「士郎か!サッカー知ってるか?」
「うん。弟とよくやってる。」
「じゃ、じゃあ、俺に教えてくれないか??俺、サッカーやったこと、ないんだ。円堂の説明じゃよくわかんないし。」
「わかりづらかった??」
「うん、ドバババとかグオオとかギュインとかわかんない。」
「あ、じゃあ、それ使ってろよ。俺、ボールあと二つ持ってくるから!」
「早く戻ってこいよぉ!…なぁ、士郎ぉって、この辺に住んでるの?」
「ううん。北海道から旅行で来たの。」
「北海道ぉ…?それって遠いの??」
「うん、結構遠いよ。ねぇ、君は守くんと…友達?」
「そうだよ!…あれ?士郎って男の子?」
「え、え?うん、男だよ??」
「そっかぁ。どうしよぉ…。」
「な、え、男の子だとダメかなぁ??」
「いや、俺、士郎のこと、好きになっちゃった…。」
「え!!/// それは、ダメなことなの?/// 僕はすごく嬉しいんだけど…。」
「嬉しい?ホント??」
「うん、僕もきっと一郎太くんのこと好き。一目惚れっていうのかな??///」
「じゃあ、俺も一目惚れ??」
「そうだね!きっとそうだよ!」
「一緒だぁ…///」
「でも、僕はずっと一緒にいられない。」
「何で?ずっとここにはいられないの?」
「僕にもおウチがあるから…。」
「じゃ、じゃあ…今日はたくさん遊ぼうね!!」
「ッ!!/// そうだね。絶対、このこと忘れない。僕の初恋だもん。」
「はつこい…?」
「初めて人を好きになったってこと/// だから、僕の中で一番は一郎太くんだよ!」
「な、なんか、すごく照れる…。///」
「可愛いね、一郎太くんの方が女の子みたい。」
「そ、そんなことない!!それより、リフティング、教えてよぉ。」
「いいよ。」――

そうだ。思い出した。女の子じゃなくて男の子だ。初恋からして男の子だったなぁ。俺って小さい頃からそっちの道に…。いや、たまたま好きになった人が男の子だったということにしておこう。
あのあと、円堂が戻ってきてすぐにこのこと伝えたっけ。小さい頃はなんでも人に聞いて欲しくて仕方なかったっけ。それだから、俺の初恋を知っていたのか。いや、あれが初恋だったのか。どうして今まで忘れていたのだろう?こんなに大切な記憶…どうして?

――僕のこと忘れていなかったら、ずっとサッカー続けていて欲しいな――

彼が帰るといったあと、最後に告げた言葉。サッカー…。何の因果か、偶然とは捉えたくない、いや、これは決められていたこと。もしかしたら、自分は心の何処かで気付いていたのかもしれない。忘れてなどなかったのかも。ずっと、大切に、大切に奥底にしまっていた記憶がこんな時に思い出すのも何か意味があるのかもしれない。

――一郎太くん――

士郎…ってまさかな?
ちらり、っと彼の座っている座席を見ると、ずっと楽しげに話し続けている彼と染岡。俺はまたムッとして身体を元に戻し、深く座り込む。隣で円堂はクスクス笑っている。

「何?」
「んー?だって、もう気づいてるんじゃないの?」
「…何のこと?」
「吹雪と、小さい頃にあった士郎が同一人物だってさ!」

俺はしばらく黙ってから、小さく否定の言葉。違う…と思うんだ。もし、気がついていたら言うだろうし、士郎だったら浮気はしない。きっと、俺だけを見ていてくれるはずさ。あの、優しげな表情を思い出すと少し目に涙が浮かぶ。円堂は俺の頭をポンポンと撫でて、やっぱりな、とまた何かを見抜かれたようにそう言い放って。

「吹雪は俺のこと覚えていないんだ…。」

――彼の寂しげな声が聞こえた気がした。
僕の大好きな彼の方を見るとやはり、小さい頃から仲のよかったキャプテンと一緒に座り、一緒に話している。彼が嫉妬顔で僕のところに来てくれることを願ったのに大失敗だ。僕は飛行機が苦手だ。あの頃を思い出して泣きそうになるから。あの別れが悲しくて、辛くて、もうあの気持ちは味わいたくないから。それ以来、飛行機に乗るのは避けてきたのに。やっぱり、思い出してしまうよ。別れる時に、僕の両手をギュッと握りしめて、大好き、と舌っ足らずな声で伝えてくれた君の声と今にも泣きそうだった顔。君は幼いのにすごく感情を顔に出すのを嫌がって、少し強がりで、でも、口にすることは純粋で綺麗な気持ちのこもった言葉。
君は忘れてしまったかな?僕は名前を聞く前から少し何かを感じていたよ。僕の初恋の人が成長したらこんな顔になっているんじゃないかってね。名前を聞いて確信したけど。君は僕のこと、覚えてる?サッカーを続けてくれていたのはあの時の言葉を覚えてくれていたから、そうだったらいいな。今もこうして付き合えているのは偶然だなんて、僕は考えていないよ?あのころから決まっていたことなんだってね。

「なぁ、吹雪。風丸と一緒に座んなくてよかったのか?」
「うんー、困ったなぁ。嫉妬して来てくれると思ってたんだけどな。」
「お前なぁ…。ん?」
「どうしたの?」

か、風丸くん??僕の前に立って、少し悔しげな顔。

「嫉妬したよ!!染岡、席変わって…?」
「おう。」

染岡くんは席を立ってキャプテンの隣に座る。僕は席を一つずれて、彼の座るスペースを作る。彼がゆっくり、隣に座る。ちょっと不機嫌そう。苛めすぎたかな??

「風丸くん、今の聞いてた?」
「吹雪の思い通りになってよかったな!!」
「お、怒ってる?」
「別に?」

足を組んで少し、むすっとした表情をしている彼は、逆に可愛い。自分でそれに気付かないところもいい。なんて、彼の評価をする前に機嫌を直さなきゃ。全然怖くないけど。

「はぁー、昔の風丸くんは素直に好き好きいってついてきたのにな…」
「昔の俺??」
「え、いや、北海道で会ったときのこと、で…」
「その時、お前に好きなんて言ってないけど。」
「えっとぉ、」

そうだったぁ、昔の風丸くんのこと言ってどうするの、僕。本人が思い出すまで待とうって思ってここまで来ていたのに。風丸くんは少し黙りこんでしまった。他の奴と勘違いしてるんだろ!!とか言われ兼ねない、また浮気だ、と思われてしまうかも…。

「風丸くん…?」
「その呼び方、違うだろ…。」

急に声が小さくなった風丸くん。どうしたの?と俯く風丸くんの顔をしたから覗き見ようとしたら、僕の両手を掴み、握りしめた風丸くん。

「大好き…」

なんだろ、これ。デジャブ?

「あ、うん。知ってるよ?」
「ッ!!/// 分かってない!!もう止めた。」

またそっぽ向いてしまう彼。彼の頭を撫でてみる。若干、表情が緩んだ。あ、可愛い。

「一郎太ぁー。機嫌を直してよぉー?」
「士郎は浮気する奴じゃない。俺だけが好きな真っ直ぐな奴だ…。」
「やっぱり、思い出したんだ。」
「そっちこそ。」

すごく懐かしい感じがする。それと同時に安心した。彼は段々と機嫌を直していった。これも原因だったのかな?

「僕は待っていただけ。リフティング、上手くなった?」
「一緒に練習して、みただろ?」
「うん、見た。」

握られた手がまどろっこしい。もっと君に触れたい。思い出してくれたのが嬉しくて、君をもっと感じたい、触りたい。僕の風丸くん…。

「好きだぞ。」
「僕の方がもっと好きだよ?」

彼はやっと、手を解放してくれた。僕はすかさず頬に手を当て、キスを落とす。キスをしたあとは思い切り身体を抱きしめ、君を感じる。心臓の音までもが僕に伝わる。

「じゃあ、もう俺を試す様なことするなよ…。」
「怖かった?」
「当たり前。」
「わかった。君しか見ないよ?」

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