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□ぶ ブレーキなんてきかない*
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(蘭マサ 狩屋視点)

気がつけば好きになってた、

なんてことよくある。今の俺の状態、それ。相手は女みたいな髪型した、女みたいな顔の、ハスキーボイスの先輩。残念なことに女じゃない。そしてさらに追い討ちをかけるようにその人には俺同様に好きなやつがいるみたいでー。全く、俺のこと眼中にないみたい。まぁ、出会いからして最悪だったし、ウザい後輩、だとでも思ってるんだろうな。

出会ったのは転校初日。元々、サッカー部に入るつもりだったけど、初めて声をかけてくれた天馬に引っ張られ入部。その時、本気で先輩は女だと思ったね。天馬や信助に男だと聞いて驚いたけど。
その時から無意識に好きだったのかもしれない。ほら、よく言うでしょ?好きな子に意地悪しちゃうアレ。俺の場合、度が過ぎていたかもしれないけど。
先輩に好きな人がいるって気付いたのはそれからそう時間はかからなかった。キャプテンと先輩、いつも一緒にいるよな、と天馬にぼやくと、幼馴染みらしいですよ!!と笑顔で返された。それを聞いてなんとなく頭で理解していた。

あぁ、俺の入る隙はないな、

って。でも、わかっていても、俺の気持ちは止まらなかった。

そして今も。授業中、窓側の席で窓の外を見ると先輩が体育の授業をしていた。ほら、また見入ってしまう。ハードル?先輩はなんなく飛び越えた。風で靡くピンクの髪も、嬉しそうにキャプテンと話す姿も、悔しいけど大好きだ、見とれていた。すると、教室にいた俺とバッチリ目が合った。

え?

ヤバイ、と思って教科書を慌てて構えて取り繕うとしたけど、彼は優しく微笑み、手を振ってくれた。そして、口パクで何か言っていた。遠くてよく分からなかったけど。

先輩が?俺に?

嫌われていると思っていたから凄く嬉しかった。俺に笑いかけてくれたのが嬉しかった。窓を見て顔が赤くなり、口をパクパクしていた。そんな俺を見て、口元を抑え笑っていた。

放課後になって天馬たちと部室に向かった。俺は部活の間、先輩と目を合わせられなかった。

部活が終わり、今日はヒロトさんたちが迎えに来るから天馬たちとは先に別れた。靴箱のところで座り込んで待っていると先輩とキャプテンがやって来た。

「狩屋?帰らないのか?」
「早く帰るんだぞ?」

俺はただ、はい、と素直に返事した。

「誰か待っているのか?」

俺の隣にしゃがみ込む先輩。ハスキーボイスが甘く耳にかかる。小さく、そうです、と言うと

「神童、先に帰っててくれ。」
「?」
「えぇ?!」

キャプテンは、わかった、と短く答えて、また明日な、と俺たちに手を振る。

「よかったんですか?」
「?別にいつも一緒にいなくてもいいだろ?」
「そうじゃなくて...その。」
「なんだ?」

先輩は苦手だ。そうやって、目を見て話すから。ジッと見られると嫌みも何も言えなくなる。何でもないです、と答える他なかった。

「誰を待ってるんだ?」
「彼女...とか言ったらどうします?」

折角、一緒に居られたのにまた俺はそのチャンスを捨てるようなことを...。きっと、空気を読んで帰ってしまう。でも、一緒にいたらきっとヒロトさんにからかわれる...。

「彼女か...うーん。じゃあ、ここで一緒に待つ。」
「へ?」
「彼女なんて、駄目だ。」

急に真剣な目で見つめられてどう対処していいのか、何を言いたいのか、やっぱり嫌われていたのか。

「えっと、先輩...彼女なんて冗談ッ...。」
「ん。」

先輩に冗談だと、言おうとすると口を塞がれた。それは先輩の唇によって。その唇は柔らかくて甘くて、舌を絡み合わせると大人な感じがして気持ちが良かった。何でこんなことになったのかよくわからなかった、が考える気も起きなかったわけで。デオドラントの香りが仄かに薫る。唇が離れると唾液がつーっと伝ってイケないことをしているような妙な感覚。
俺から何か話し出そうとすると、

「急にこんなことしてゴメン。嫉妬した。狩屋のこと、好きだから。」
「き、りの先輩?」

キャプテンのことが好きなんじゃないのか、そう聞くと

「俺が神童を?いや、神童は普通に幼馴染み。つか、一乃と付き合ってるし。」

俺はまた大きく驚く。そんな風に見えなかったし、第一、男同士...俺が言えた義理じゃないけど。先輩は、あ、これは言っちゃ不味かったのか?と眉を下げて失敗したという顔をしていた。

「俺のこと、嫌いなんじゃ?」
「それは俺の方。最初はどうしてこんなに嫌われているのか...結構悩んだんだけどさ、気付いたら狩屋のことばかり考えてた。」

ハハハ...そりゃ、ラフなプレイばかりしていたらそう考えるのも無理はない。

俺と同じ...。いつから好きだったのか、わからない。俺も気が付いたら目で追って、気が付いたら惚れていた。

「そっか、狩屋に彼女はいなかったか。考えてみたらまだ転校してきたばかりだしな。」

ニコニコしながら先ほどのキスのことなど考えてもいないのだろう。俺はこんなにもドキドキして、まだ余韻すら感じるのに。

「好きな人ならいますよ?」

からかい半分でそういうといきなり顔を押さえ込まれ、

「誰?俺の知っている人?女?」
「女...みたいな男。」
「お前も男か!!女みたいって...神童か、速水か、まさか、吹雪さん!!」

興味津々に聞いてくる張本人。何で選択肢に自分を入れないのだろう。一番女顔なのに。しかも、無性にイライラしている、見ていて面白い。けど、このままだと埒が明かないので。

「嫌だったら言ってくださいよ?」
「?狩屋...?」

小さなリップ音が靴箱で反響する。俺は自分からするなんて恥ずかしくて終えたらすぐに顔を背けた。先輩はキョトンとしていたので、

「俺の好きな人は...つまり、霧野先輩ですよ。」

そう言うや否や先輩に力一杯抱き締められる。苦しかったけど、嬉しいの方が勝ったというか何というか...。先輩の鼓動がこっちに痛いほど伝わってきたから俺も同調した。
人の暖かさに目を瞑り、感じとる。心地が良い。

「マサキー♪お取り込み中ゴメンねー。」
「コラ、ヒロト!!空気読めよ!!」

俺の父兄が登場した。

「ヒロトさん...緑川さん...」
「え、あのイナズマジャパンの!!わぁー、感激!!!」

俺のことを抱き締めたまま楽しそうに語る先輩。こんな光景見られたくなかった。今にも失神してしまいたい羞恥に追われている俺にヒロトさんはズカズカ突っ込んでくる。

「マサキも成長したねー。キスまでしちゃって!!えーと、彼女さんかい?」
「あの、一応男です。」
「ヒロト!!でも、俺もよく間違えられるんだ。」
「緑川、マサキが、キスしt」
「しつこい。俺たちだってこのくらいの年には...あ///」

もう、やだ。こんな父兄。先輩はニコニコしながらバカ夫婦のやり取りを見ている。

「霧野くん、だっけ?送ってくよ、車で。」
「いえ、平気です。もう、今日は大満足です。」

改めて、自分のしたことを思い返し、それを見られていたこと、色々頭の整理がつかなかった。ただ、

「また明日な、狩屋!!!」

俺だけに向けられたこの笑顔だけが全てを溶かしていく。また明日、そう笑いかけてくれるだけで、そう喜んでくれるだけで幸せ。

「また明日...」

少し照れながら、手を振ると振り返す手。ピンクのおさげをピョコピョコ揺らし、スキップでもしてしまうのではないかという足取りで帰っていった。

そのあと、俺はこの夫婦に車の中で散々遊ばれることになる。

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