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□忘れられない貴方
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「やぁ、風丸くん!久しぶり♪元気してたぁ?」
「ふ、ぶき?」

久しぶりにあった吹雪。髪型や声も変わり、背もずいぶん伸びて昔のままではない、大人になったんだと実感させられた。

「風丸くん?」
「あ、うん。久しぶり」

俺は素直に喜べなかった。彼が変わってしまったことが俺の中では中々認めようとしない。酷いことだよな。まぁ、まだそれだけならよかった...が、あのとき捨てた気持ちまで戻ってきてしまうとは。

──「風丸くーん!!!」
「うわぁっ!!!吹雪のし掛かんなよ。」
「フフッ、風丸くん温かーい。」
「ったくぅ。」

それはFFIが終わり、俺たち雷門イレブンの卒業式が行われた日。その日は春だがまだ肌寒い気候で、彼にとっては少し寒かったのかもしれない。彼は元々冷え性で、FFIのときはいつも手の温めあっこをしていたぐらい。
その日に円堂はみんなで卒業試合をするとかで元チームメイトである吹雪や木暮、立向居、綱海、リカ、塔子、虎丸、一之瀬、土門を誘った。
俺と吹雪は特別仲が良いとか、付き合っているとかではない。吹雪は誰に対してもああやっていろんな奴とスキンシップをとる。俺はそのことにヤキモチを妬いたこともなく、それが彼の自然体であることを知っているから、何も言えない。どうこうしようと考えたこともない。どうせ叶わないのだから、この恋は。

「試合終わったね。」

彼が俺に話しかけている。そうだな、と相槌をうつ。そこからは他愛もない会話が続く。でも、彼は北海道の人だ。もちろん、ずっと居られるわけもなく、終わりの時間は来る。

「あーあ、僕、もっと話していたかったな。フフッ」

この恋、ずっと引きづっていても成就するわけでもない、意味の無いように思える。捨てるには今日が一番相応しいと思う。

「吹雪、」
「ん?何、風丸くん?」
「ありがとう。」
「な、何?急に?」

ただ、言いたかった。この気持ちをありがとう、俺に青春をありがとう。さよなら。

──今になってまたこれか。あの時捨てたはずなのに、この心拍数は忘れもしない、あの幼かった頃のものと同じ。

「風丸くん、髪切ってないんだね。やっぱ、風丸くんはロングが一番☆」
「ありがとう。」

髪を切らなかったのはもしかしたら貴方に忘れて欲しくなかったからかもしれない、変わりたいと言っていたくせに変わろうとしていなかったのかもしれない。
貴方とすれ違ったとき見つけてくれるかもしれない、貴方の中の俺のイメージを変えたくなかったのかもしれない。
でも、貴方は変わってしまったね。貴方の自慢の必殺技、ウルフの名の通り、狼のような少し野性味のある髪型。あの頃より少し低く男らしくなった声。俺より小さかった身長も今では同じくらい。

「吹雪、変わったな。」
「そう?男らしくなった?フフッ」

でも、笑い方は変わっていなかった。昔のまんま。懐かしい。

「風丸くん、泣いてるの?」
「...ゴメン、懐かしくて。」

俺の初恋の人、俺の中の捨てきれなかったものが今また動き出す。
これから青春をしても遅くはないですか?

貴方を忘れること、出来なかった。

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