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□せ 世界<君*
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(京天 天馬視点)

日が暮れたなぁと感じた頃、練習はここまで!というキャプテンの声が聞こえた。俺は走りこみを終え、キャプテンの元に駆け込み、ありがとうございました、といつもの後輩ならではの挨拶。

「つーるーぎー!!」

そして、俺は人目も気にせず一目散に彼に飛びつく。彼は溜息交じりに、しょうがないな、と俺の頭を撫でて、そのままおんぶをしてくれた。重くないのかな?聞いてみると、もっと食えって言われた。別に痩せ形じゃないと思うんだけどな。でも、剣城におんぶしてもらえるなんて、少し前の俺たちなら考えられないよな。

「天馬のこどもー!」
「いいもん。剣城にこうしてもらえるだけで幸せ…」

わーい、と騒いでいると信助が横から、ちゃちゃを入れるから俺は惚気て見せた。信助は思っていた通りの赤面反応で面白い。部室までおぶってくれた彼は、

「ほら、ここまでだ。着がえろ。」
「はーい。」

俺のことをそっと降ろし、自分のロッカーへ向かった。俺もロッカーへ向かう。隣のロッカーの狩屋がニヤニヤとして肘で突いてくる。

「へぇ、ラブラブなんだ?」
「…そう見える?」
「そうとしか見えないだろ!」
「…でっしょー!!」

あまり惚気んなよ、言って霧野先輩と帰って行った。人のこと言えないよなぁ…。悪口言い合って、でも仲がいい。そんな羨ましい関係。

みんなには、そう見えるようにしてるだけ…。実は剣城とは恋人でもなんでもない。俺は、ついこの間、意を決して告白をした。結果はNOの一返事。それからというもの、みんなの前で俺は嘘を突きとおしている。みんなに俺と彼とが恋人同士であるかのように見せつける。そうしたら流れで包み込めるんじゃないか、なんてズルイ考え。彼はそんな俺の考えに気付いているんじゃないかな?そんな俺に付き合ってくれているんだから、やっぱり彼のことを忘れることはできなくて。

「さて、帰るかな? …え?つ、つつつ剣城!!!?」
「遅かったな。帰るぞ?」
「え。だ、だだだだって、剣城は…」
「いーから。」

俺の手を引っ張って、早くしろ、と急かす。なんだか、意識しちゃって無言になるよ。
俺と同じように最悪な出会いをしてから恋愛へと発展した狩屋と霧野先輩は付き合ってからも何も変わらず、いつもの調子でいられる。

「松風、」
「な、に?」
「そんなにビクつくな。」
「ごめん」
「俺はさ、お前のこと嫌いなわけじゃない、から。」

握られていた手が先ほどよりも強く握られているのに気が付き、少し高い位置にある彼の顔を見上げる。彼はそんな俺の視線を感じたのか、ふと目線を少し下げたため目がバッチリと合った。

「あ、えっと、どういうこと…。」
「今は、付き合えないってことだ。俺も松風のこと、いや、何でもない。」

な、何が何やら…。これは期待しちゃうよ…?剣城?///

彼の言いたいことは何となく分かった。すぅっと風が俺の横を過ぎて行った。街路樹のざわめく音がした。今そんな自然を一つ一つ感じて、これからを考えた。
彼もホーリーロードを勝ち抜き、本当のサッカーを取り戻そうとしている。俺もチームのみんなもが持つ夢。最近の俺はそんな大切なことを忘れていた。いや、きっと、サッカー以上に、世界以上に好きなものを見つけてしまったから。
でも、それを叶えたなら…いや、叶えた時はもう一度、気持ちを伝えようと思う。

「剣城、これからも一緒に帰っていい?」
「…好きにしろ。」

今はこうして手を引かれながら帰るのもいいかなぁ、なんて。人と比べるのはやめるよ。だって、狩屋たちみたいに付き合っていなくても俺は充分幸せだってわかったから。

とりあえず、なんとかなりそうだ!

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