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□じ 自覚してない、この感情*
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(拓七 神童視点 神童の初恋)

一乃は俺の大切な友人だ。昔からずっと。そう思っていた。笑う顔もむくれる顔もいじける顔も全部見た。全部が子供らしい無邪気なものだった。俺とは違って大人ぶったりしない素直な奴で一緒に居られて良かった。こんなにも素敵な友人に出会えて。

「神童ぉーっ!!!」

元気いっぱいに俺の名を呼ぶ彼につい笑みが溢れる。練習が終わるまで待っていたのだと。ファーストチームとセカンドチームは練習メニューも時間も違うからバラバラの時間に終わる。今日は終わった時間が遅かったから俺に会えると踏んで待っていたらしい。

「俺も必殺技使えるように毎日練習してるんだ!!」
「一乃は飲み込み早いからすぐ出来るようになるって。」
「し、神童がいうなら...きっとそうだな!!!」

無邪気さと可愛らしさは昔からずっと変わらない。彼の話はキラキラと星が飛び散るように楽しく話すからそんな姿が微笑ましくてついこちらまで頬が緩む。
俺はまだユニフォーム姿だから着替えてくる、といって部室に戻る。いってらっしゃーい、という声が遠く聞こえた。部室で霧野が嫌らしい顔をして待っていた。

「何か用か。」
「いや〜、一乃と随分仲が良いみたいだからさ。」
「そうみえるか!そっかぁ...。」

仲良い、なんて言われるのも言うのも照れ臭いけどそう周りから見えていると思うと嬉しくなる。

「お前、一乃と付き合ってんのか?」
「付き合うってお前...男だぞ?冗談、」
「じゃあ、一乃の片想いかぁ。」
「霧野...さっきからおかしいぞ?どうした?」

着替えをさっさと済ませて一乃の元に向かいたいが霧野がおかしなことばかり言うから少し心配だ。

「神童が早く気付かないと誰かに捕られるぞ?例えば...青山とか。」

本当に何を言っているのか全く分からない。青山が?青山も男じゃないか。俺が一乃のこと好きだって言っているのか。付き合うとか男同士じゃ有り得ない。一乃が俺のこと好きだって言うのも普通に友情だろ?霧野が変な目で見ているから。俺は適当に霧野をあしらってまたあした、と別れを告げた。外は先程よりも黒に染まっていて夕焼けが全く見えなくなっていった。長いこと待たせたな。
視界にその彼が映り込む。名前を呼んで駆け寄ろうとしたところでもう一人の存在を目にした。

青山だ...

彼が俺に気が付くと明るく笑って一乃の肩を叩いて教えてあげている。笑って走ってきたのは青山だった。神童!!!と目を光らせて話すのも青山だ。

「青山...」
「お疲れ様ぁ!!なるほどねー、こんな遅くまで一乃が残っている理由が分かったよ。」

彼の笑顔は絶えることなく向けられ、作り笑いが引きつる。ようやく一乃が追い付いてきてヘトヘト顔。青山の方が足が早いからその差かな。

「青山、変なこと言ってないよな?」
「言ってないって〜。じゃあ、俺は帰りまーす。神童、お疲れ様!!!」
「あ、ああ。お疲れ。」

彼のハイスピードについていけなかった。そんなに話したことがなかったのに随分話しやすかったな。さっき一瞬、苛立ちを感じたような気がしたけど気のせいか。

「神童、青山と何話してたの?」
「ん?挨拶だけだよ。何か聞かれたくないことあるのか?」
「う、そういう訳じゃ...」

嘘だ。初めて嘘をつかれた。初めて秘密を作られた。悪いことじゃないけど、俺だけには何でも話してくれていると思い込んでいた。青山と2人だけの秘密が羨ましい反面またもモヤモヤした苛立ちがまた...。

「神童はさ、霧野と付き合ってるの?」
「は?」

一乃まで何言ってるんだ?最近、流行っているのか?その冗談。

「まさか。」
「ホントに?」
「何でそんなこと聞くんだ?」

ふと霧野の言葉が思い出される。

「神童は俺のこと...友達以上に考えられる?」
「?」
「俺が男の神童が好きって言ったらさ、俺のこと嫌いになる?」
「嫌いにはならないけど」
「...けど?」

よく分からない。でも、一乃を独占したい、という気持ちは何処かにある。だから、青山と2人で居るのを見ると辛いんだと思う。一乃はものじゃないのに俺は勝手に所有してたと勘違いしてる。
好きとか嫌いとか分からない。どこからが友達としての好きで、恋人になりたいという好きなのか。けど、一乃のいうものが後者だってことはわかる。

「や、やっぱり、今のなし!!!なんか、焦っちゃって口走っちゃった...忘れて?」

あ、泣きそうな顔してる。唇をちょっと噛んでいるのは彼の癖。泣きそうになるとそうする。それを自分がさせてしまったのか。そんな顔させたくなかった。

「一乃のこと、好きなのか分からないから曖昧な答え方はしたくないんだけど、こうして一緒にいると温かいんだ。他の人と一緒にいるところ見るのは少し嫌だなって思う。」
「...神ど」
「少なくとも友達以上だよ。」

こんな答え方をしても良いのだろうか?期待させるだけではないだろうか?

「え...神童?」

彼の手を握り、思いきり自分の方へ引いた。彼の身体はこちらにもたれ込み、それを待っていたかのように抱き締める俺。変なの。自分でもわからない。衝動。

「温かいな...」
「うん。」

彼は暗くなった景色の中でも光って見えた。紅く顔を染めて楽しそうに笑うんだ。こんな顔を見たのも初めてで俺の胸に擦り寄る彼の仕草に鼓動が高鳴る。辺りを吹く風は肌寒く、こんな寒い中、待たせてしまったことには後悔。中途半端な考えで決めてしまったけど、俺のことを潤んだ目で見つめる彼を見返すと後悔はないことに気付く。
胸がキツく締め付けられ彼を離したくない独占欲が高まる。何だろう、この変な気持ち。

これが好きってことなのか?

そう考えると景色がすべて違って見えた。一乃を離したくないのもこの変な独占欲も青山に抱く嫉妬も全て見えた。ようやく気がついたんだ。

初めまして、恋心───。

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