薔薇庭園

□音速コメットのスグル様よりフリーだったので強奪させていただいたですΣ
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人間ではないのだと彼は言った。





「レプリカ、って存在なんだ」

「レプリカ?」





言い慣れない言葉を反芻すれば困ったように笑う君。

初めて出会ったときと変わらない笑い方は最近では鳴りを潜めていたのに。





「人体を介さないで生まれてきた…いや、造られた模造品」





母の羊水に漂うわけでもなく、産声を上げて生まれてきたわけでもない。

ただ造られて、其処に在る存在。





「オールドラントには何人もいたけど、ここじゃ俺だけだ…」





そうやって俯いた彼の朱色の髪がさらりと彼の顔を隠した。



この世界、テルカ・リュミレースは彼が生きてきた世界ではない。

それは彼、ルークが行き倒れてるところを見つけた自分がよく知っていた。



異邦人となった彼はその事実を知ったとき、どこか安堵したような顔を見せたのを覚えている。





「寂しいか?」





答えは分かりきってるのに聞かずにはいられない狡さに、きっとルークは気付いていない。

気付かせないようにしてきたから。





「寂しくないよ。…ユーリがいるから」





そう言って微笑む顔は先ほどの歪な笑みとは違い、暖かな日だまりにいるような微笑で肩に顔を埋めてきた。

見下ろす位置にある朱色の髪をゆっくりと撫でる。





「俺、レプリカだけど。たくさん罪を犯したけど、」





常とは違い腕のなかの身体はまだ堅い。





「ユーリの傍にいたいんだ」





微かに震える声。



一つ屋根の下で共に暮らしてきたルークは自身の正体を打ち明けることを迷ったのだろう。

数ヶ月という期間がそれを物語っている。



異世界で生まれた理の違う身体はこの世界にいていいのだろうか。

そうルークは自分に問いかけていた。











「居ればいい」





彼の頭をさらに自分の胸に押し付けて抱きしめる。





「俺はお前に居てほしいよ」





耳に届いた小さな泣き声、湿った布の感触、暖かな肌。

密着した身体に感じる脈打つルークの生命維持の証。





「生きてていいんだ。ルーク」





強くなる抱擁に、ルークは嬉しそうに笑いながら涙をこぼした。

































張っていた気が緩んだのか、腕のなかで眠りについたルーク。

たしかに伝わってくる鼓動にユーリは全身が歓喜に満たされるのを自覚する。





「…クッ、ククッ、ハハハ…」





声を押し殺せずに笑い声が響く。

笑ってわらってワラッテ、顔を上げたユーリの眼は狂気じみた光に彩られた。







『コレ』は自分の『モノ』だ。







世界は腕のなかの異端を認め、容認したのだ。

ならばあとは自分が引き受ける。

ユーリが恐怖するのはルークの正体ではなく、この世界からルークが居なくなるかもしれないという別離、それだけ。



ルークが何者であろうと構わないが、ルーク自身がレプリカであることに引け目を感じ傷を負っているのなら、これ以上都合の良いことはない。

ユーリがいくら愛を囁いても、その度にルークは罪悪感を覚えるだろう。



レプリカの自分なんかに、と。



それはユーリが望むところ。





「もっと傷つけ。もっともっと追い詰めろ」





そうしてどんどん依存していけ。





「俺なしじゃ、いられなくなればいい。…なぁ?」















可愛い可愛い、俺の『バケモノ』――。















end.
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