薔薇庭園

□音速コメットのスグル様よりフリーだったので強奪させていただいたですΣΣΣΣ
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「ユーリ」





初めて口にするその呼び方。

けれど不思議と呼び慣れたかのように滑り出た名前は、目の前を行く彼の耳に届いたようだ。





「なんだ、ルークか。どうした?」





背中まである黒髪をなびかせて振り向いたユーリは、とても優しい眼で視線を合わせてくる。



ルーク、と。



ファーストネームで呼ばれたことは今まで一度もない。

しかし彼の口から出たというだけで、自分の名前がこんなにも特別な響きになるとは予想もしなかった。





「ユーリ」





もう一度、彼の名前が唇から滑る。



ただの一言ではなく、感情がこもらずにいられなかった一言。

しかしユーリは嫌な顔はせず、困ったように、照れたように苦笑した。





「だから、なんだよ」





その表情を目にして、彼の名を紡げるこの瞬間。

それを意識すれば、胸の奥が切ないような愛おしいような熱いような、制御できない感覚に溺れた。





「ユーリ」



馬鹿の一つ覚えでもいい。



「ユーリ」





呆れてくれたっていい。





「ユーリ」







彼を、乞わずにはいられないのだ。







「ユーリ…」









ただ一つの名を、慈しむように音に乗せたとき。



彼の腕が自分へと伸ばされたのが、たまらなく嬉しかった――。





















目を開くと、毎日代わり映えしない天井が見える。







カーテンの隙間から陽の光が射し込むところから察するにそろそろ起きる時間だろう。

ルークはのっそりと上体を起こしてそのまま座った。



まだ覚醒しきれない頭だが、一つの疑問がぐるぐると脳内を回っている。





「……なんの夢みてたっけ……」





とても嬉しい夢だったはずなのに、霞がかった思考では言動の一片すら手繰り寄せられない。

少々すっきりしないものの『なにか良い夢』と断定してベッドから降りる。



カーテンを開けると澄んだ青空が広がり、ルークは口元をほころばせた。





「今日は良い日になりそう、だな」





この日からルークと彼の人の人生がガラリと変わったことは、言うまでもない。











end.
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