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□此処に。
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裏の森から教団に帰る途中。

「あ…」
モヤシがいきなり立ち止まった。

「?」
様子を伺っていると微笑みながら口を開く。

「太陽と月が向かい合ってますよ」

右には橙色に輝く夕陽。
左にはまだ青い空にうっすらと浮かんだ月。

「じわっと暖かくなりません?」

「何がだ」

今は1月。
寒い中に風も吹き付けてもう指先の感覚はない。

「心かな?」
我ながらクサイですね、と笑いながら言う。

「…少しな」

いつもは出会うことのない太陽と月が向かい合っている、ということだろうか。

モヤシは驚いたような顔をして俺を見た。

「…何だよ」

「その、いつもはこういうの恥ずかしがるのにって思って」

俺がうるさい、と言う前に口を挟まれた。

「でも、綺麗ですよ」

「すっごく」

そう言った唇が、俺のそれに触れる。

「…っ」

強く押し返すつもりがつい弱い力になってしまう。

じーっと俺を見て言うアレン。

「花は散り際が1番美しいと言いますけど、太陽も沈み際が1番綺麗ですよね」

「でもこの二つって大きな違いがあるんです」

そう言って、微笑みながらまた歩き出す。

「花は散ったら咲かないけれど太陽は沈めば昇るんです」

「素敵でしょ?」

だから僕は太陽の方が好きなんです、と呟いた。

「でも、やっぱり神田には敵わないですね」

「しつけぇよ、モヤシ」

「アレンですって」

(小さいけれど確かに此処にある)


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