短編

□彼の視線はわたしを優しく絡めとった
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家に帰ると花京院がソファで寝ていた。
眠りについていた、という意味ではなく寝っ転がっていた、という意味で。
だらしなく腹を出しながら雑誌を読むその姿に、呆れてため息が出た。

「シュークリームと煙草、買ってきた」

ソファを通り越し、この家で一番大きい机にコンビニ袋を置く。
そして、椅子を引きそこに座る。花京院には背を向ける形だ。
袋からシュークリームを取り出し、封を開けかぶりつく。
口の端にクリームがついてしまった。指先でぬぐい、ペロリと舐める。

「僕にもちょうだいー」

花京院がソファから腕を伸ばす。
チラと目を向ければ雑誌は床に乱雑に置かれていたのが見えた。
何を欲しがってるのか分かっているが、あえて煙草を投げつけてやる。
違うよ、と不満げな声が聞こえてくるが構わずシュークリームを食べ続ける。
少々甘すぎるそれを頬張りながら、物思いに耽った。

俺と花京院が同棲し始めて1ヶ月。
始めはちょっとしたノリのようなものだったが、随分とこの生活にも慣れた。
今日はたまたまだったが、最初の頃はふたりっきりなのが落ち着かず、よく買い物に行ったものだ。
男二人の同棲なんてむさくるしいだけだが、まあ俺は気にしない。
……花京院のことは嫌いじゃない。多少むさくるしかろうがあつくるしかろうが構わない。

「シュークリームちょうだいー」

花京院がよっこいしょと声を出しながらソファから起き上がった。年寄りか。
せっかく起き上がったのに残念だったな、もうシュークリームは俺の腹の中だ。
何も入っていないビニール袋をヒラヒラと見せつけるようにして揺らす。
そのビニール袋をゴミ箱に投げ入れて、煙草を取り出し火を付ける。
煙草を咥えたまま後ろを振り向けば、目を細めて笑う花京院がいた。
花京院がよく分からない行動をするのは慣れっこなので、そのままじっと見つめる。

「甘いものが好きな承太郎、可愛い」

冷たいシュークリームで冷えた頬が、少し熱くなった。
帽子を深くかぶり直し、花京院に背を向ける。

「……おらよ、シュークリーム」

もう1つ買っておいたシュークリームを袋から出した。

「承太郎大好き!」

てめえの優しさに絡め取られたかもしれねえぜ。

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