キセキ(プラス)

□06 体操着
1ページ/2ページ

その日、小日向は学校に行くのをとても楽しみにしていた。
転入してから、いつも楽しみにしていたのだが、今日はまた特別だった。
しかし・・・


『あっ・・・ない』
「みかんー!着替えに行こうー?・・どうしたの??」
『体操着忘れてきちゃった』
「・・・あー」


初めて大勢で体育を行うということで、とても楽しみにしていたのだが、肝心の体操着を忘れてしまったらしい。
確かに出かけるときまでは準備をしておいたのに・・・と考えたところで玄関で靴を履く際そのままそこに置いて来てしまったことを思い出し落胆した。
他のクラスの人に借りようにも、小日向にはそんな友人まだ居ない。
友人の森山も他クラスにそんなに友人はいないようで、少ない友人のところに行ってみたが、トイレに行っているのか居なかったり、今日は持ってきていなかったりして、結局借りることが出来なかった。


「うーん・・・ごめんねー」
『そんな事ないよー!それより、先に着替えに行ってきていいよー!私先生に体操着忘れた事言ってくるから!』
「・・・そうだね。ごめん、そうさせてもらうね!」


森山は、急いで更衣室に向かう。
その背を見送りながら、小日向は静かにため息をついた。


「なーに、しみったれた顔してんだよ」
「どうしたんですか?」
『?!黒子くん!』
「おい、俺は無視かっ!」


丁度、森山の友達を訪ねてきた場所は青峰と黒子のクラスだったのだ。
存在を無視された青峰。


『冗談だよ。青峰くんと黒子くん同じクラスだったんだね』
「えぇ、まぁ。それよりどうしたんですか?」
『あー・・・ちょっと体操着忘れて・・・』
「ダセッ」
「黙ってください、青峰くん。それで借りれないか聞いていたんですね」
『どっか行って青峰くん。そうなの、でもダメだったから、今日は大人しく見学してようと思って』
「そうですか・・・」
「お前等、俺の扱い酷くねぇか?」
「気のせいだよ。あっ、それじゃあもう行かなくちゃ!じゃーね!」


小日向は、体育の教師に見学することを伝えに行くのだと告げるとその場を去って行った。


「体育サボれるなんて、女子は喜ぶのかと思いました」
「あー・・・あいつはほら」


ふと、青峰の脳裏に以前小日向が廊下で会った際言ってた言葉がよみがえった。


“だって・・・”


「・・・そうだよなー」
「何がですか?」
「いや、楽しみにしてたんだろーなと思ってよ。テツ、お前のジャージ貸してやれば?」
「いくら僕が小柄だと言っても、さすがに男子のジャージを着せたら可哀そうです」
「だよなー・・・あっ!そーか。俺ちょっと行ってくるわ」
「?」


青峰は、それだけ告げると小日向の方に走って行った。
小日向はそれほど急いでなかったのか、青峰が速かったのか、すぐ追いつくことができた。


「おいっ!ちょっと来い」
『えっ?・・・何?』
「ジャージ、貸してやる」
『・・・・・・・・・・・・・青峰くんの?』
「バァアカ。俺のじゃでかすぎんだろーが。いいから来い」
『言ってみただけだよ。どこ行くの??』


青峰が歩き出したので、そのままついて行くと2−Dの教室に着いた。


「おーい、さつきー」
「何?青峰くん。いきなり」
「こいつにジャージ貸してくれ」
「はぁ?いきなり来て何かと思ったら・・・」


青峰が呼んだのは、他でもない彼の幼馴染・・・桃井さつきだった。
彼女とは以前会ったことがあるが、あまりいい印象は持たれていないだろう。


「あっ、あなたは前テツくんにちょっかいかけてた」
『かけてません!』
「ふーん・・・」
「いいから、さっさと出せよ。じゃねーと、テツの着ることになんだろーが」
『えっ?』
「はぁ?!ちょっと、どういう事?!」
『い、いや、私に聞かれても・・・』


愛しの黒子のジャージが、こんな見ず知らずの女に渡るなんて桃井が黙っているはずがなかった。


「テツくんのジャージは渡さないわ!すぐ持ってくるから、待ってなさい!」


桃井が、教室に戻っていくのを呆気に取られながら見てると、青峰が可笑しそうに笑い出した。


『ちょっと・・・黒子くんのジャージだって私には大きすぎるんですけど』
「そこかよ!」
『彼女にあんな言い方したら、私目の敵にされそう・・・』
「なっとけ、なっとけ」
『・・・後で誤解解いておかなきゃ』
「まぁ、これで体育できんだし、良かったじゃねーか。楽しみにしてたんだろ?」
『!?』


その時、丁度桃井が体操着を持ってきた。


「それ、今日使うんだから終ったら返してよねー」
『あっ、う、うん。ありがとう』
「あと!テツくんは渡さないんだから!」
『だーかーらー狙ってませんってば!』
「おら、行くぞ。そろそろ着替えねーと、遅れんだろーが」


青峰に促され、その場を後にする。
経過はどうあれ、無事体操着を借りることができた。
これで、楽しみにしていた体育に参加することができるのだ。


「んっ?どーしたんだよ?気持ち悪ぃ顔して」
『黙って青峰くん。・・・でも』
「?」
『・・・ありがと』
「お、おう」


小日向は急いで、更衣室に向かった。
すでに、田中を始めクラスの女子は終ったのだろう、そこには誰もいなかった。



  
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ